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地域後見推進プロジェクト

共同研究
東京大学教育学研究科生涯学習論研究室+地域後見推進センター

2.活動理念・目的

少子高齢化の進展と認知症高齢者等の増加

 現在わが国では、少子高齢化の進展により、65歳以上の高齢者人口がおよそ3500万人となり、総人口に占める割合は約28%にまで高まっています[1]総務省「人口推計(2017年)」
 今後、人口の減少と高齢化がさらに進むことにより、2060年には人口が約3割減少しておよそ8,700万人になり、高齢化率は約40%にまで高まるとみられています[2]国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2012年、出生中位・死亡中位推計)」

 この高齢化の進展にともなって、認知症高齢者が大幅に増加してきており、近年、重大な問題となっています。
 2012年時点で、認知症高齢者の推計人数は約462万人で、現在は500万人を超えているとみられています[3]朝田隆他「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応(厚生労働省科学研究費補助金認知症対策総合研究事業 … Continue reading
 さらに、精神障がい者(認知症の人を除く)が約360万人、知的障がい者が約130万人ほどいるとみられています[4]内閣府「障害者白書(2001~2018年)」 に基づき推計
 これらをすべて合わせると、判断能力が不十分な人は全国でおよそ1000万人にものぼる計算となり、今後もその数はますます増えていくものとみられます。

 そんな中、近年特に注目されているのが成年後見制度の活用です。

成年後見制度の概要と利用状況

 成年後見制度は、判断能力が不十分な人に代わって、家庭裁判所により選任された後見人が、本人の財産管理や身上監護などを行うことを通じて、その生活等を支援する制度です。
 認知症高齢者等の大幅な増加にともない、成年後見人の需要は近年ますます高まってきています。
 その需要の増加に対応するため、今後は親族や専門職だけでなく、一般の市民も後見人として積極的に活用していく必要があるといわれています。

 しかし2018年現在において、後見制度を利用している人の数は約22万人に過ぎず、潜在的な後見ニーズ(判断能力が不十分とみられる人の総数)のわずか2%を満たしているに過ぎません。
 今後、認知症高齢者等がますます増加し、後見人の需要も一層高まっていくと見込まれますが、親族や専門職だけでこれらすべてをまかなうことは難しいといえます。

 そこで、この後見の需要増に対応するため、新たな後見の担い手として期待されているのが市民後見人です。

市民後見の理念とその必要性

 それでは、市民後見人とはどのような人のことを言うのでしょうか。

 最高裁による定義[5]最高裁判所「成年後見関係事件の概況(2015年)」を敷衍すると、次のように言うことができます。
 つまり市民後見人とは、「専門職や社協などの職業後見人[6]ここで「職業後見人」とは、専門職や社会福祉協議会(社協)のように、後見を職業や職務として行っている人のことを指します。以外の人のうち、本人と親族関係ないし交友関係がなく、主に社会貢献のため、地方自治体や市民後見関連団体等が行う後見人養成講座などにより、成年後見制度に関する一定の知識、技術、態度を身に付けた上、他人の成年後見人等になることを希望して、家庭裁判所より後見人として選任された人」のことを言います。

 では、一般の市民があえて他人の後見人となる理由とは一体何なのでしょうか。それは、仮に親族後見人が「家族愛」、専門職後見人が「職業倫理」とするならば、市民後見人は「地域的共助の精神」ということができるでしょう。
 市民後見とは、地域における一般の市民同士が、「困った時はお互い助け合い」の精神に基づき、地域の認知症高齢者等の社会的弱者を支援する活動、ということができます。
 これは、地域の市民それぞれが「自分が健康なうちは自分ができる範囲で、地域で困っている人を助ける」活動を実践することであり、そのような実践を通して、地域の誰もが「自分が困った状況になったときは、地域の誰かがきっと助けてくれる」ことを期待できるような社会を作り上げていくこと、を意味しているといえます。

後見推進施策の展開

 上記のような状況を背景に、後見制度や市民後見の一層の普及と推進をはかっていくために、2012 年の老人福祉法の改正により、地方自治体が後見人養成等の後見推進事業を行うこととされました。
 しかし、自治体の中には市民後見人養成事業等の実施に消極的な所も少なくなく、市民後見人の養成とその活用が順調に進んでいるとは言い難いのが実情です。実際、後見人全体に占める市民後見人(法人を含む)の割合は、現在(2018年時点で)、わずか4%程度に過ぎません。

 このような状況の中で、2016年4月に成年後見制度利用促進法が成立しました。この法律は、基本計画の策定や市民後見人の育成などを通じて、低迷している後見制度の利用の一層の促進を図るものです。本法の施行により、今後、市民後見人の養成や後見制度の利用などがさらに推進されていくことが期待されます。

厳しさを増していく社会状況

 その一方で、少子高齢化の進展などにより、国や地方自治体の財政状況は一層厳しさを増しています。
 2012年度の社会保障給付費の総額は約110兆円にものぼっており、2025年度にはこれがさらに約149兆円にまで増加する見込みです[7]内閣府「社会保障の現状と課題(2013年度)」
 他方、社会保障費をまかなう国の財政は逼迫の度合いを増しており、 2016年に国の借金は1,091兆円にまで達しています[8]財務省「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高(2016年3月末)」。さらに、この借金は今後も増え続ける見通しであり、国の財政制度等審議会の試算では、2060年度に8150兆円にまで達するとされています[9]財政制度等審議会(2014年4月)。国の借金の膨張により、将来的に国家財政が破綻してしまう可能性も否定できず、その意味では、日本はすでに「持続困難な社会」に陥っていると言うこともできます。

 このように国家財政や社会保障費が逼迫している中で、行政による福祉や公共サービス、また年金や医療・介護保険等の給付などは、今後ますます先細りしていく可能性が高いとみられます。
 だからといって、今後の生活は基本的に個々人の自助に委ねる、とするのも非常に難しいと考えられます。労働者の所得が減少傾向にあり[10]厚生労働省「毎月勤労統計調査(各年度)」、また身寄りのない高齢者や独居世帯が増え続けている現状においては[11]国立社会保障・人口問題研究所「世帯動態調査(2014年)」、自分の財産や親類の協力だけでは生活が成り立たない世帯が、今後ますます増えていくと考えられるからです。
 また、精神・知的障がい者についても、今後ますます親や親類等が高齢化し、障がい者福祉等も削られていく見込みが高いなかで、「親亡き後問題」は一層深刻化していくと考えられます。

地域的共助に基づく共生社会の創出

 このような厳しい社会状況に対処していくためには、地域の人々が「地域的共助」の精神に基づいて、互いに助け合うことができる社会を作っていくことが重要になってくると思われます。
 福祉や社会保険や家族などを当てにすることが今後ますます難しくなっていく状況の中で、今の社会を維持していくためには、地域における市民の相互支援に基づく「共生社会」を、これから20年、30年かけて作っていく必要があると考えられます。

 市民後見とは、この「地域的共助」を実践する社会活動の一つであり、このような活動を通じて、人々の社会意識の向上や社会活動の実践を促し、もって、厳しい状況下でもあっても希望ある社会の形成を目指すもの、ということができます。
 認知症高齢者や精神・知的障がい者等の社会的弱者たちが、住み慣れた地域で生涯安心して暮らせるように、地域の住民一人一人が、地域社会を担う一員として、後見という形で支援活動を行うことを通じて、希望ある社会を共に作っていく重要な一翼を担うことを目指しているのです。

当プロジェクトの目的

 このような状況の中、当プロジェクトは、「後見」に係る諸問題に関する調査・研究、後見人の養成・支援、後見制度の普及・啓発などの活動を行うことを通じて、地域に暮らす人々の安心・安全を守り、その福祉の向上を図ることを主要な目的としています。
 より具体的には、市民後見人を養成するための講座の開催、後見の実務や関連制度等に関する調査・研究、市民および親族の後見活動や行政による後見関連事業への支援等に係る事業などを行うことによって、市民後見等の一層の普及・推進を図り、もって持続可能な社会の形成促進の一助となることを目指しています。

 

脚注

脚注
1 総務省「人口推計(2017年)」
2 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2012年、出生中位・死亡中位推計)」
3 朝田隆他「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応(厚生労働省科学研究費補助金認知症対策総合研究事業 平成23年度~24年度総合研究報告書)」2013年
4 内閣府「障害者白書(2001~2018年)」 に基づき推計
5 最高裁判所「成年後見関係事件の概況(2015年)」
6 ここで「職業後見人」とは、専門職や社会福祉協議会(社協)のように、後見を職業や職務として行っている人のことを指します。
7 内閣府「社会保障の現状と課題(2013年度)」
8 財務省「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高(2016年3月末)」
9 財政制度等審議会(2014年4月)
10 厚生労働省「毎月勤労統計調査(各年度)」
11 国立社会保障・人口問題研究所「世帯動態調査(2014年)」