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地域後見推進プロジェクト

共同研究
東京大学教育学研究科牧野研究室+地域後見推進センター

8.成年後見制度の現状と課題

1. 成年後見制度の課題・問題点

 成年後見制度における課題や問題点としては、主に以下の8つの点を挙げることができると思われます。

  1. 成年後見制度の利用者数の伸び悩み。(成年後見制度の利用が後見需要を十分に満たしているとは言い難いこと。)
  2. 近年、親族が後見人に選任されにくくなっていること。(専門職後見人が選任される割合の急増と親族後見人が選任される割合の急減。)
  3. 成年後見制度の利用件数全体に占める後見類型の割合の高さ。(本人の意思がより尊重されやすい補助や任意後見の利用率の低さ。)
  4. 市民後見人の普及と活用が十分とは言い難いこと。(市民後見人の選任数の少なさや関連機関の取り組みのあり方。)
  5. 市町村長申立ての大幅な増加と対応の必要性。(身寄りのない高齢者等の増加と各自治体における財源や人員などの制約。)
  6. 成年後見に対する各自治体の取り組みの温度差。(後見の申立件数や市町村長申立て件数の格差。)
  7. 根絶できない後見人による不祥事(不祥事発生への対応と抑制の難しさ。)
  8. 後見制度支援信託の利用の急増(本人の財産を本人のために使うことが難しくなっている状況。)

 以下、成年後見制度の現状を明らかにすることを通して、成年後見制度の問題点や今後の課題について見ていきます。

2. 成年後見制度の利用者数

 2017年現在において、成年後見制度を利用している人は約21万人に過ぎず、潜在的な後見ニーズ(判断能力が不十分とみられる人の総数:推計約870万人)のわずか2%を満たしているに過ぎません。
 今後、認知症高齢者等がますます増加し、後見人の需要も一層高まっていくと見込まれますが、親族や専門職だけでこれらすべてをまかなうことは難しいといえます。
 今後の後見の需要増に対応するため、新たな後見の担い手として、市民後見人のさらなる活用が期待されているといえます。

3. 誰が後見人に選ばれているか

 成年後見制度の創設時(2000年)、後見人の選任数全体に占める親族後見人の選任数の割合は91%でしたが、2017年には26%にまで急減しています。
 その背景には、①単身世帯や身寄りのない高齢者等の増加により、本人の後見人となるべき親族が見当たらないケースが増えている、②親族後見人による不正が多いことから、家庭裁判所が親族後見人の選任に消極的になっており、第三者後見人を選好する傾向にある、ということなどがあるとみられます。

 このような状況の下で、近年、後見人の選任数が特に増えているのが専門職(弁護士や司法書士など)です。専門職の選任数は、2000年に全体のわずか3%であったものが、2017年には65%にまで大きく増加しています。
 諸外国では、後見人の多くを本人の親族が担っているのが一般的であり、国際的には日本の現在の状況は特異であるといえます。
 また専門職については、その絶対数が限られており、後見を敬遠する人も少なくないことから、専門職が後見の需要増のすべてに対応できるわけでもないといえます。

4. 成年後見はどのぐらい申し立てられているか

 後見等開始の審判の申立件数は、後見制度発足以来、年々増え続け、2012年には約3万5千件にまで増加しました。
 だがその後、件数は頭打ちし、2013年から2016年までの5年間、申立件数は横ばいとなっています。
 その要因はさまざまなものが考えられますが、この数字は良くも悪くも、現在の制度や社会状況における平準的な水準といえるのかも知れません。

 ただ、申立件数が頭打ちになったといっても、後見制度に対する需要自体が減少しているわけではありません。
 実際、後見制度の利用者数は毎年およそ1万件ずつ増加し続けています。
 申立件数の頭打ちは、むしろ後見類型の増加率の鈍化と捉えて、今後は、補助や任意後見の申立件数の増加を図るよう志向すべきであるように思われます。

 なお、2006年の申立件数の一時的な急増は、障害者自立支援法施行の影響と考えられます。

5. どの後見類型がよく利用されているか

 後見等(後見、保佐、補助)の開始の審判において、「後見」類型は制度発足以来、一貫して全体の約8割を占めています。
 他方、後見類型以外の利用件数は伸び悩んでいます。
 2017年における審判全体に占める割合は、保佐が16%、補助が4%に止まり、任意後見にいたってはわずか2%に過ぎません。

 後見類型は、本人を保護する機能は強いのですが、その反面、本人の行為能力を包括的に制限し、またさまざまな資格を制限してしまう制度です。他方、補助や任意後見は、本人の行為能力の制限を最小化し、本人の意思を最大限尊重することを可能にしうる制度といえます。
 今後は、後見類型偏重の傾向を是正すると共に、その他の類型(特に補助と任意後見)の一層の活用が図られるべきと考えられます。

6. どのような人が後見人に選ばれているか

 2000年から2017年の18年間において、後見人に選任された人のうち、全体に占める割合が最も大きいのは本人の「子」(18年間の平均が24%)であり、次いで「司法書士」(同17%)、「弁護士」(同14%)、「兄弟姉妹」(同9%)などとなっています。
 この点、2017年における割合は、「司法書士」(28%)、「弁護士」(22%)、「子」(14%)、「社会福祉士」(12%)の順になっています。
 制度発足当初は、後見人に選任されるのは主に本人の親族でしたが、年を経るごとに、専門職(特に司法書士と弁護士)がこれに代替していった状況が見てとれます。

 他方、市民後見人(法人を含む)が全体に占める割合は、平均(18年間の平均)でわずか2%にすぎません。
 市民後見人の割合は年々少しずつ増え続けており、2000年の0%から2017年には5%にまで増えました。です
が、今後の後見の需要増を十分にまかなうためには、市民後見人の一層の普及と活用が期待されているといえます。

7. 市町村長申立ての利用状況

 法定後見の開始審判の申立てに占める市町村長申立の件数が、近年、大幅に増加しています。2000年にわずか23件(申立件数全体に占める割合は0.3%)だったのが、2017年には7千件以上(同20%)にまで増加しています。
 その背景には、単身世帯や身寄りのない高齢者等の増加により、本人の世話をしたり、また必要な時に後見の申立てをすべき親族が見当たらないケースが増えていることなどがあるとみられます。

 今後も独居老人の増加などにより、市町村長申立てに対する需要は増えていくと見込まれます。しかし各自治体においては、財源や人員などの限界もあり、必ずしもすべての需要に対応できるとは限らないように思われます。

8. 各自治体における後見の申立ての状況

 各都道府県ごとの後見開始の審判等の申立状況をみると、次のようになります。
 まず、全国平均(2017年)を見ると、高齢者人口に占める申立件数の割合は0.1%であり、また高齢者人口に占める市町村長申立て件数の割合は0.02%となっています。

  次に、都道府県別の順位(2014年)を見ると、高齢者人口に占める申立件数の割合について、最も割合が高いのは東京都(0.17%)であり、ついで京都府 (0.15%)、鳥取県(0.15%)などとなっています。
 他方、最も割合が低いのは秋田県(0.05%)であり、ついで 栃木県(0.06%)、茨城県(0.06%)などとなっています。

 また、高齢者人口に占める市町村長申立件数の割合については、最も割合が高いのは岡山県(0.04%)であり、ついで東京都(0.03%)、徳島県(0.03%)などとなっています。
 他方、最も割合が低いのは岩手県(0.004%)であり、ついで秋田県(0.004%)、大分県(0.005%)などとなっています。

 各自治体ごとに申立件数の割合にはかなりの差があり、また自治体ごとに市町村長申立ての取り組みに格差があることが見て取れます。

高齢者人口に占める申立件数の割合と市町村長申立て件数の割合

9. 後見人による不祥事の状況

 最高裁判所の調査によると、2011年から2017年の7年間において、後見人による横領などの不正の被害額が少なくとも253億円に上ることが明らかになっています。1年間の平均被害額は約36億円になります。

 その被害のほとんどは親族後見人によるものです。親族後見人による不正は被害額全体の95%(年平均約34億円)でした。他方、専門職による不正は全体の5%(同、約2億円)です。
 また、1件あたりの被害額としては、親族後見人による被害が約700万円で、専門職が約1千万円でした。

 不正の報告数の推移を見ると、2011年から2014年までは増加傾向にありましたが、2015年以降は減少に転じています。

 このような不正を抑制するために、家庭裁判所は、本人が一定以上の資産を有する場合、①親族後見人を選任する時は、専門職の監督人をつけるか、あるいは後見制度支援信託を利用させる、②親族ではなく、代わりに専門職等を後見人に選任する、といった取り組みを進めているようです。
 近年の不正の減少傾向は、家庭裁判所による不正防止策の成果とみることができますが、他方で親族後見人選任数の急減といった弊害も生じているようです。

10. 後見制度支援信託の利用状況

 後見制度支援信託(以下、支援信託)とは、後見制度の利用者(後見類型)の財産のうち、日常的な支払をするのに必要十分な金銭を預貯金等として後見人が管理し、通常使用しない金銭を信託銀行等に信託する仕組みのことをいいます。

 支援信託の利用者数(累計)は、制度開始当初の2012年はわずか98人に過ぎませんでしたが、2017年には2万人余りにまで急増しています。
 そして利用者の急増に伴い、信託財産額(累計)も2012年は約43億円でしたが、2017年には約7千億円にまで大幅に増加しています。

 他方、1件当たりの平均信託財産額は、2012年に約4,300万円であったものが、2017年には約3,200万円にまで減少しています。
 これは支援信託の利用対象を、本人の保有資産が比較的多い事案から少ない事案へと、徐々に広げていることを意味します。

 上記のような傾向は、後見人による不祥事防止等を目的として、家庭裁判所が支援信託の利用を積極的に進めていることが背景にあります。

 支援信託の利用拡大は、後見人による不祥事の発生を抑制する効果が期待できる反面、本人の財産を本人のために使うことが難しくなるといったデメリットが生じる点が問題点として指摘されています。