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地域後見推進プロジェクト

共同研究
東京大学教育学研究科生涯学習論研究室+地域後見推進センター

7.市民後見とは

1. 市民後見人とは

 市民後見人とは、一般の市民による後見人のことを言います。

 また、最高裁による定義[1]最高裁判所「成年後見関係事件の概況(2018年)」を整理すると、次のように言うことができます。
 つまり市民後見人とは、「専門職や社協以外の人で、本人と親族関係がなく、主に社会貢献のため、地方自治体等が行う研修を受けることにより、成年後見制度に関する一定の知識や技術、態度を身に付けた上、他人の後見人になることを希望して、家庭裁判所から選任された後見人」のことを言います。
 簡単にまとめると、他人のために後見活動をする一般市民のことを市民後見人と言うことができます。

 市民後見人になるために特に資格等は必要とされません。(そもそも後見人になるために資格は不要です。)
 とはいえ、後見人として適切に事務を行うためには、市民後見人養成講座の受講などにより、一定の知識を身に付けておく必要があると言えます。

2. 市民後見とは

 市民後見とは、一般に、市民後見人(または市民後見法人)によって行われる後見活動のことを言います。

 ここで市民後見法人とは、「法人の定款内に成年後見の受任や後見相談、後見制度の利用促進等の啓発などの成年後見業務を事業として定め、一般市民が中心となって自発的に創設し、運営する法人[2]牧野篤監修, 飯間敏弘・佐藤智子編『市民後見入門』誠信書房, 2017年, p.189」のことを言います。
 市民後見法人は、法人の形態としてはNPO法人(または一般社団法人)の形態をとることが多いと言えます。
 法人の構成員としては、後見人養成講座の修了者や社会貢献に取り組む意欲を持った人が多いようです。また、弁護士等の専門職や医師等の医療・介護職などの人が参加している例も見られます。 

3. 市民後見人の特徴

 高齢化の進展により認知症高齢者は大幅に増加を続け、それにともない成年後見制度の利用者数も増え続けています。
 また、身寄りのない高齢者や、親族と疎遠な高齢者の増加により、親族以外の第三者による後見人の需要が増加しています。

 その一方で、近年、後見人として親族が選任されにくくなっており、その代わりに専門職の選任数が大きく増加しています。
 とはいえ、今後も増加し続けると見込まれる後見需要に、専門職がすべて対応することも難しいため、後見の担い手として一般の市民を活用することが、これまで以上に期待されています。

 専門職は基本的にはビジネスとして後見事務を行うため、身上保護(身上監護)がおろそかになりがちであり、また後見報酬をあまり見込めない案件の受任には消極的、と一般に言われています。

 他方、市民後見人は、本人と同じ地域で生活している市民であることから、地域の社会資源についてよく把握しており、また本人と同じ生活者として市民目線で職務を行うことにより、きめ細やかな身上保護を行えるという点で強みがあると言えます。
 また市民後見人は、ビジネスとして後見事務を行うのではないため、生活保護受給者など、後見報酬をほとんど期待できない案件についても対応可能となります。

 ただし市民後見人は、専門的な知識(特に法律的な知識)が十分でないことが多いゆえ、個人単独で後見事務を行うのではなく、後見実施機関(成年後見センターなど)、社協、専門職などと連携してそのサポートを受けたり、またそれらに監督人になってもらったり、あるいは市民後見法人等のメンバーとして活動するなど、専門性を高め、不正を防ぐ体制をつくる必要があるといえます。

4. 市民後見人の活動形態

 市民後見人の活動形態については、大きくいって、「個人」での活動と「法人」での活動の2つに分けることができます。

(1) 個人での活動

 一般の市民が、自治体等との連携も何もなく、まったくの個人で、市民後見人として家庭裁判所から選任を受けるのは非常に難しく、そのような例はほとんどないように思われます。
 通常、一般の市民が個人で市民後見人として活動しようとする場合、自治体主導の仕組みを活用する必要があります。具体的には、居住地の市町村が開催している市民後見人養成研修を受講した上で、当該市町村により市民後見人候補者として登録されることが必要です。(以下、市町村により市民後見人候補者として登録された市民のことを「登録市民」と呼びます。)

 この場合(自治体主導の後見の場合)の活動形態としては、大きくいって次の2つが挙げられます。

①個人受任型

 市町村が登録市民を家庭裁判所に推薦し、家庭裁判所が当該登録市民を後見人に選任し、その登録市民が市町村等の支援を受けながら後見事務を行う形態です。
 この形態の場合、社協等の後見実施機関が監督人となったり、あるいは登録市民と専門職との複数後見の形で、市町村や実施機関などのサポートを受けながら後見事務を行うのが一般的です。
 ただし事例としては多くなく、次の支援員型で活動する例の方が多いようです。

②支援員型

 社協等の後見実施機関が法人として後見を受任し、登録市民は、社協等と契約を結んだ上で、後見支援員等として後見事務に携わる形態です。また、社協の日常生活自立支援事業の生活支援員として活動する場合(あるいは生活支援員等の経験を積んだ後で、後見支援員として活動する場合)もあります。
 この活動形態の場合、一般に、登録市民が後見を受任するのではなく(受任するのは後見実施機関)、登録市民は社協等との間で労働契約等を締結した上で、その契約に基づき、主に身上保護を中心に事務を行うことになります。
 

 上記2つの活動形態において扱われる案件は、市町村長申立ての案件、および市町村や社協などが対応してきた案件などが中心になります。また基本的に任意後見は扱わず、主に法定後見を扱うことになります。

 ただ、そもそも市民後見人の養成や登録等の事業を行っていない市町村においては、この形態を利用することはできません。それに、自治体の市民後見人養成研修を受講すれば、必ず自治体に市民後見人候補者として登録されるわけでもありません。
 また、せっかく市町村が市民後見人を養成してもそれを十分に活用できていなかったり、市民後見人等に対する支援体制が十分ではない例も少なからず見られるようです。

(2) 法人での活動

 地域において、市民が主体となってNPO法人や一般社団法人等(以下、市民後見法人といいます)を設立して、その法人が後見を受任することにより市民後見活動を行っている例も、近年、徐々に増えてきています。
 この場合、個々の市民は、当該法人の会員等のメンバーになることによって、後見に係る事務に携わることになります。

 市民個人が市町村の推薦なしに家庭裁判所から選任を受けることは非常に困難ですが、法人の場合、一定の要件を備えていれば選任を受けることも可能となります。実際、相当数の後見受任を受け、実績を積んでいる法人も少なくありません。

 自治体主導の後見の場合、基本的に法定後見が中心となりますが、市民後見法人の場合、法定後見だけでなく、地域の人々と任意後見契約を結んで任意後見を行うことも可能です。
 加えて、移行型の任意後見契約により、見守り契約や財産管理等委任契約などを結び、見守りや財産管理等を行うこともできます。

 また自治体主導の後見の場合、登録市民が担当する事務は、身上保護を中心とした困難度の低い事務に限定されるケースが多いですが、市民後見法人の場合、一定の実績を積んで家庭裁判所から評価されていれば、相当程度困難な事案であっても選任されることは可能です。

 市民後見法人で活動する場合、資金管理面での不正を防止する体制を構築し、適正に運用することが特に重要となります。具体的には、監査部門の設置や入出金の二重・三重のチェックなど、厳格な資金管理の仕組み作りと継続的な運用が必要になります。
 また必要に応じて、市町村、社協、後見実施機関(成年後見センター等)、専門職などと連携し、そのサポートを受けながら活動することも重要といえます。

5. 市民後見人の職務と報酬

(1) 市民後見人の職務内容

 自治体主導の後見の場合、市民後見人が携わる案件としては、例えば、日常的な金銭管理や安定的な身上保護が中心の事案、紛争性のない事案など、高い専門性が必要とされない案件が、一般的に想定されています。
 そして市民後見人は、それらの案件について、本人宅への定期訪問等といった身上保護面を中心に事務を行うのが一般的です。他方、専門性が高い事案については、専門職や後見実施機関(社協等)が担うことが多いようです。

 一方で、市民後見法人の場合は、受任した法人が、身上保護に止まらず、財産管理を含め、後見の事務全般を行うことになります。また案件によっては、困難な事務が生じる場合もありますが、法人としてそれに対処する必要があります。

(2) 市民後見人の報酬

 後見人の報酬については、「4-3.後見の費用と報酬」を参照してください。
 市民後見人の場合、専門職よりも報酬額は低くなる傾向にあるようです。
 なお監督人がついた場合は、監督人の報酬も必要となります。

 自治体主導の後見においては、市民後見人が個人で受任している場合、報酬付与の申立てを行わない(つまり無償で後見事務を行う)という運用を行っている自治体もあるようです。
 また、社協等の後見支援員として活動する場合、週○○時間の勤務で時給○○円などといった報酬規定を設けることが多いようです。

 一方、市民後見法人の場合は、通常、法人が定期的に報酬付与の申立てを行い、報酬を受け取ることになります。
 この場合も、報酬額は専門職よりも低くなる傾向にあるようです。

6. 市民後見の制度的整備の進展と課題

 近年、後見制度や市民後見人の一層の普及と推進を図っていくために、制度的な整備が進められています。

 2001年から成年後見制度利用支援事業が開始され、高齢者や精神・知的障がい者に対して、成年後見制度の申立て経費や成年後見人等の報酬に対する公的な助成などが行われるようになりました。

 2012 年に老人福祉法が改正・施行されて、市町村は、市民後見人の育成および活用を図るため、研修の実施、適任者の家庭裁判所への推薦などを行うことが努力義務とされました。

 それに並行して厚生労働省は、2011年度から市民後見人推進事業(および都道府県市民後見人養成事業)を開始し、また2015年度から、その後継事業として権利擁護人材育成事業を始めることにより、地方自治体による市民後見人の養成やその支援体制の整備などを支援してきました。

 これにより、市民後見人の養成や支援等を実施する自治体は徐々に増加してきました。しかし多くの場合、法的にはそれが努力義務に止まることもあって、いまだ実施に消極的な自治体も多く存在します。
 実際、後見人全体に占める市民後見人(法人を含む)の割合は、現在(2018年時点で)、わずか4%程度に過ぎません[3]最高裁判所「成年後見関係事件の概況(2018年)」

 このような状況の中で、2016年4月に成年後見制度利用促進法が成立し、さらにそれに基づいて2017年3月に成年後見制度利用促進基本計画が制定されました。この法律は、後見制度の運用の改善や市民後見人の育成などを通じて、低迷している成年後見制度の利用の一層の促進を図るものです。
 本法および基本計画を契機として、今後、市民後見人の養成や成年後見制度の利用などが、さらに推進されていくことが期待されます。

脚注

脚注
1, 3 最高裁判所「成年後見関係事件の概況(2018年)」
2 牧野篤監修, 飯間敏弘・佐藤智子編『市民後見入門』誠信書房, 2017年, p.189