2-1.法定後見・任意後見、禁治産制度
1. 成年後見制度の理念
成年後見制度は、①自己決定の尊重、②ノーマライゼーション、③残存能力の活用 の3つの理念に依拠しているとされています。
このうち「①自己決定の尊重」は、本人の意思を最大限尊重しようとする考え方です。
また「②ノーマライゼーション」は、障がい者や認知症高齢者等を特別なグループとして社会から隔離するのではなく、可能な限り社会の一員として地域社会で通常の生活が送れるような環境や条件を作り出そうとする考え方です。
そして「③残存能力の活用」は、本人が今なお有している能力を最大限引き出そうとする考え方です。
2. 成年後見制度の種類(法定後見と任意後見)
成年後見制度は、大きくいって「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つから構成されています。
法定後見制度はさらに「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分かれます。
任意後見制度とは、本人の判断能力が衰える前に任意後見契約(将来、任意後見人により支援を受ける内容に関する契約)を結んでおき、判断能力が衰えた後に当該契約を発効させて任意後見を開始させるものをいいます。
支援の具体的内容(誰を任意後見人にするか、任意後見人にどのような権限を委任するかなど)は、任意後見契約の内容に依存します。
他方、法定後見制度とは、任意後見契約を結んでいなかった場合に、本人の判断能力が衰えた後、家庭裁判所に後見開始の審判等の申立てを行い、法定後見を開始させて、法定後見人による支援を受けるものをいいます。
支援の具体的内容は、法律に規定された条文の内容、および家庭裁判所の審判の内容に依存します。
法定後見の根拠法令は主に民法であり、他方、任意後見は任意後見契約に関する法律(任意後見契約法)に規定されています。
任意後見は、任意後見契約の内容を本人と任意後見受任者との間で決めるため、本人の意思を反映させることが容易です。
他方、法定後見(特に後見類型)の場合、支援の内容は契約ではなく法律や審判によって決められてしまうため、本人の意思を反映させることは難しいといえます。
3. 禁治産制度の廃止と成年後見制度の成立
現在の成年後見制度は、1999年に民法が改正(2000年に施行)されることによって成立しました。
それ以前は、禁治産制度・準禁治産制度が存在していました。
禁治産制度とは、心神喪失の常況にある人を保護するために、家庭裁判所が禁治産の宣告をして、本人に後見人をつける制度のことを意味します。禁治産の宣告により、本人は禁治産者となります。
家庭裁判所によって選任された後見人は、禁治産者が行う法律行為について包括的な代理権と取消権を有しており、それらの権限を用いて禁治産者の財産管理等を行いました。
準禁治産制度とは、心神耗弱者(判断能力が不十分な人)または浪費者を保護するために、家庭裁判所が準禁治産の宣告をして、本人に保佐人をつける制度のことを意味します。準禁治産の宣告により、本人は準禁治産者となります。
保佐人は、準禁治産者が行う法律行為について一定の同意権と取消権を有しており、それらの権限を用いて準禁治産者を保護しました。
しかし旧来の禁治産制度では、禁治産という名称が差別的な印象を与え、さらに禁治産者であることが戸籍に記載されるなど、制度を利用しにくいという問題が指摘されていました。
1999年の民法改正では、禁治産が「後見」、準禁治産が「保佐」に改められ、これに「補助」が新たに加えられて3 類型となりました。
また同時に、任意後見制度が新しく創設されました。
この成年後見制度は、2000年4月に介護保険制度と同時に施行され、両者は高齢者施策の車の両輪と呼ばれました。