2-5.法定後見の3類型(後見・保佐・補助)
法定後見は「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分かれています。
以下、各類型について順に説明していきます。
1. 後見
(1) 後見とは
「後見」類型は、判断能力がほとんどなくなってしまった人に適用されるもので、3類型で最も重い類型に当たります。
後見類型では、家庭裁判所に選ばれた「成年後見人」が「成年被後見人」を法的に支援・保護します。
判断能力がほとんど失われてしまうと、日常生活を営むことすら困難になる場合が多くなります。そのため後見類型では、生活全般にわたって成年後見人が成年被後見人を広範囲に保護します。
成年被後見人は、様々な不利益(消費者被害など)を被ってしまう可能性が非常に高いので、そうならないように、本人を法的に広く保護することが重視されています。[1]ただし、成年被後見人の行為能力が大きく制限されるというデメリットもあります。
また後見類型は、成年後見制度の中で最も利用者数が多い類型であり、利用者全体の約8割を占めています。
(2) 成年被後見人とは
成年被後見人とは、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」ことから、家庭裁判所によって後見開始の審判を受けた人のことをいいます。
「事理を弁識する能力」とは、簡単に言うと「判断能力」のことを意味します。
「判断能力を欠く常況」とは、ときに能力が回復することはあっても、たいていの場合、判断能力がほとんどない状態にあることを意味しています。
成年被後見人は、成年後見人によって非常に広い範囲で法的保護を受けます。
成年被後見人が行う法律行為(契約等の行為)は、日常生活に関することを除いて、そのほとんどが取り消し得べき行為(後で取り消すことができる行為)となります。例えば、成年被後見人が消費者被害にあった場合、その契約を取り消して被害を回復することができます。[2]その一方で、成年被後見人は制限行為能力者となり、行為能力を大きく制限されてしまいます。
(3) 成年後見人とは
成年後見人とは、成年被後見人を法的に支援・保護するために家庭裁判所から選任された人のことをいいます。
成年後見人は、その法的権限として、非常に広範囲な代理権(本人に代わって法律行為を行う権利)と取消権(本人が単独で行った法律行為を無効にする権利)を付与されます。ただし同意権は付与されません。
成年後見人は、これらの権限を用いて、成年被後見人の財産を管理するとともに、様々な契約等を本人に代わって行い、また本人にとって不利益な契約を取り消すなどして、成年被後見人を保護します。
2. 保佐
(1) 保佐とは
「保佐」類型は、判断能力が相当程度低下してしまった人に適用されるもので、3類型の中で中間に位置する類型といえます。保佐類型では、「保佐人」が「被保佐人」を法的に支援・保護します。
保佐類型の対象者は、日常的な事柄は一人でできても、不動産取引等の重要な法律行為を一人で行うのは不安があるような人です。
保佐類型は、そのような重要な法律行為を保佐人が法的に支援することによって、本人を保護することを重視しています。
仮に、被保佐人が保佐人の同意なしに単独で契約等を行い、それに失敗したときは、その契約等を後で取り消すことによって本人を保護することができます。
(2) 被保佐人とは
被保佐人とは、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である」ために、家庭裁判所から保佐開始の審判を受けた人のことをいいます。
「判断能力が著しく不十分」な状態とは、日常的な買い物などはできても、重要な法律行為(不動産取引、お金の貸し借り、遺産分割協議など)については、他者の援助を必要とする状態にあることを意味しています。
被保佐人は、保佐人が主に同意権や取消権を用いることによって、広い範囲で法的保護を受けます。[3]一方で、被保佐人は制限行為能力者となり、行為能力を大きく制限されてしまいます。
(3) 保佐人とは
保佐人とは、被保佐人を法的に支援・保護するために家庭裁判所から選任された人のことをいいます。
保佐人は、その法的権限として、包括的な同意権(本人が単独で行った法律行為を完全に有効にする権利)と取消権を付与されます。ただし代理権は付与されません。代理権が必要な場合は、家庭裁判所に申し立てれば、必要な範囲で代理権を持つことができます。
保佐人は、基本的には同意権と取消権を用いて、被保佐人が重要な契約等を行うのを支援します。
具体的には、被保佐人がした契約等が妥当と判断される場合には、それに同意します。また本人が、保佐人の同意なく単独で、不利益を被る可能性が高い契約等をした場合は、それを取り消します。
また保佐人が代理権の付与を受けている場合は、その代理権の範囲内で、被保佐人の財産を管理したり、様々な契約等を本人に代わって行うなどして、被保佐人を支援します。
3. 補助
(1) 補助とは
「補助」類型は、判断能力がある程度低下してしまった人に適用されるもので、3類型の中では最も軽い類型に当たります。補助類型では、「補助人」が「被補助人」を法的に支援します。
補助類型の対象者は、日常生活については特に問題ない場合が多いといえます。
ゆえに補助類型では、本人が一人で行うのは難しい事柄について、補助人に必要な範囲で個別に権限を付与して、いわばオーダーメイドの形で被補助人を支援することを重視しています。
(2) 被補助人とは
被補助人とは、「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である」ために、家庭裁判所から補助開始の審判を受けた人のことをいいます。
「判断能力が不十分な状態」とは、基本的に日常的なことは自分でできますが、一人では難しいことや苦手なことがいくつかあり、それについては他者の援助を必要とする状態にあることを意味しています。
被補助人は、補助人によって、補助人が持つ権限の範囲内で法的支援を受けます。[4]ただし補助人に同意権が付与された場合、付与された同意権の範囲内で、被補助人の行為能力が制限されます。
(3) 補助人とは
補助人とは、被補助人を法的に支援・保護するために家庭裁判所から選任された人のことをいいます。
補助人は、もともと代理権や同意権などの権限を一切持っていません。なので、それらの権限が必要な場合は、家庭裁判所に権限付与の申立てを行う必要があります。
ただし、それらの権限を包括的に付与することはできないことになっています。ですので、被補助人が一人で行うのが難しい事柄について、必要な代理権や同意権を選んで、補助人に個別に付与することになります。
補助人は、付与された法的権限の範囲内で被補助人を支援します。
具体的には、代理権を付与されている場合は、被補助人の財産を管理したり、特定の法律行為を本人に代わって行うなどして被補助人を支援します。また同意権が付与されている場合は、妥当な契約等については同意し、逆に妥当でない契約等については取り消すことによって、被補助人を保護します。
4. 後見・保佐・補助のまとめ
3類型についてまとめると、以下の表のようになります。
後見 | 保佐 | 補助 | ||
本人 | 成年被後見人 | 被保佐人 | 被補助人 | |
本人の |
事理を弁識する能力を欠く常況 | 事理を弁識する能力が著しく不十分な状態 | 事理を弁識する能力が不十分な状態 | |
本人を保護する人 |
成年後見人 |
保佐人 |
補助人 |
|
後見人の権限 | 必ず付与される権限 | 財産管理、および財産に関する法律行為についての広範囲な代理権と取消権 |
民法13条1項所定の行為[5] … Continue readingに関する同意権と取消権 |
なし |
申立てによって付与される権限 | なし | 付与を申し立てた法律行為に関する代理権または同意権(取消権) | 付与を申し立てた法律行為に関する代理権または同意権(取消権) | |
後見人を監督する人 | 成年後見監督人 | 保佐監督人 | 補助監督人 |
脚注
↑1 | ただし、成年被後見人の行為能力が大きく制限されるというデメリットもあります。 |
---|---|
↑2 | その一方で、成年被後見人は制限行為能力者となり、行為能力を大きく制限されてしまいます。 |
↑3 | 一方で、被保佐人は制限行為能力者となり、行為能力を大きく制限されてしまいます。 |
↑4 | ただし補助人に同意権が付与された場合、付与された同意権の範囲内で、被補助人の行為能力が制限されます。 |
↑5 | 民法13条1項所定の行為とは、以下の行為を指します。①元本の領収またはその利用、②借財または保証、③不動産等の重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為、④訴訟行為、⑤贈与、和解、仲裁合意、⑥相続の承認・放棄、遺産の分割、⑦贈与の申込みの拒絶、遺贈の放棄、負担付贈与の申込みの承諾、負担付遺贈の承認、⑧新築、改築、増築、大修繕、⑨民法第602条に定める期間を超える賃貸借。⑩1~9の行為を制限行為能力者の法定代理人としてすること |