4-1.後見人の職務の内容
1. 財産目録と収支予定表の作成
成年後見人は、後見開始の審判の確定後、遅滞なく財産の調査に増手し、1ヵ月以内に財産目録を作成しなければなりません。またそれと共に、毎年支出すべき金額の予定(収支予定表の作成)もしなければなりません。
実務では家庭裁判所が、就任した成年後見人等に対して、初回報告(就任時報告)の形で、期限を設定したうえで、財産目録や収支予定表などの提出を求めています。
なお財産目録の作成が終わるまでは、成年後見人は、急迫の必要がある行為のみを行うことができます。
2. 財産管理と身上保護
成年後見人等の法律上の職務内容は、本人の「生活、療養看護および財産の管理に関する事務」を行うことです。
このうち「生活、療養看護に関する事務」のことを「身上保護」と呼んでいます(「身上監護」ともいいます)。
具体的に、身上保護とは、本人宅への定期訪問、医療や介護サービス等の契約・変更等、高齢者向け施設等への入退去に係る手続きなどを行うことを意味します。
成年後見人等の仕事は大きくいって「財産管理」と「身上保護」の2つから構成されていると一般に理解されています。
この点、成年後見人等は財産管理だけを行っていれば十分というわけではありません。
つまり財産管理はそれ自体が目的なのではなく、あくまで本人の身上保護のための手段として行うべきものと考えるべきでしょう。
3. 法律行為と事実行為
ここで成年後見人等が行うべき「事務」とは、財産管理と身上保護に関する法律行為を行うことを意味しています。
そしてこの法律行為は、①私法上の行為と②公法上の行為の2つに大きく分けることができます。
「①私法上の行為」としては、契約の締結や解除等(不動産の売買、賃貸借契約、施設入居契約、医療・介護サービスの契約など)が挙げられます。
また「②公法上の行為」としては、行政への申請や不服申立て等(住民票等の取得、生活保護の申請、要介護認定の申請や審査請求など)が挙げられます。
成年後見人等が行うべき「事務」とは法律行為を行うことなので、事実行為(本人の介護や世話など)を行う必要はありません。
ただし、法律行為を行うために必要となる事実行為(施設入所の際の施設の調査・選定、契約の履行状況の確認など)については、行う必要があります。
4. 職務上の注意義務(善管注意義務と身上配慮義務)
成年後見人等は上記の職務を遂行するうえで、善良なる管理者の注意義務をもって行うこと(「善管注意義務」)が法的に義務づけられています。
さらに成年後見人等には、善管注意義務の具体的内容として「身上配慮義務」が課せられています。
つまり成年後見人等は、常に本人の意思を尊重し、その心身の状態および生活の状況に配慮しながら、職務を行わなければなりません。
成年後見人等がこの注意義務に違反し、本人に損害が生じた場合、成年後見人等はその損害を賠償する責任を負う可能性が生じます。