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地域後見推進プロジェクト

共同研究
東京大学教育学研究科生涯学習論研究室+地域後見推進センター

講師への質問と回答

Index

1. 成年後見制度概論: 飯間敏弘
2. 法定後見制度Ⅰ・Ⅱ: 髙村浩
3. 後見人の実務Ⅰ・Ⅱ: 木原道雄
4. 後見人の実務Ⅲ: 中道基樹
5. 後見関連制度・法律Ⅰ(介護保険): 土屋幸己
6. 後見関連制度・法律Ⅱ(生活保護): 梶野友樹
7. 後見活動の事例Ⅱ(市民後見): 上田佳代
8. 後見実務の演習: 飯間敏弘
9. 後見関連制度・法律Ⅲ(遺言・民事信託): 遠藤英嗣
10. 家族法の基礎(相続): 片岡武
99. 講座全般に関する質問

 
※講師のご都合等の事情により、いただいたご質問にご回答できない場合(または事務局が講師に代わってご回答する場合)がございますので、ご了承ください。
※回答は各講師の個人としての見解であり、各講師が所属する組織等の見解ではございませんので、その旨ご了承ください。
 

→ 受講生専用ページに戻る
 

1. 成年後見制度概論
   飯間敏弘(東大助教)

質問1

質問 回答

 10/29(土)3限めの成年後見概論で、後見人等の報酬について質問です。
 後見人は法律行為のみでなくそれに必要な事実行為も行いますが、そのための時間と労力は大変重いものと想像します。法定後見での報酬月2万円+αは、専門職の職務として妥当な金額なのでしょうか。安いと思うのですが、労力のかかる案件の頻度を考えると妥当なのでしょうか。
 法人を設立し活動したいと計画しているため、実際に支援活動してもらう人への報酬と法人収入のバランスに苦慮していることからの質問です。
 よろしくお願いします。

 一般的には、専門職後見人の場合、1ヶ月の報酬額のベースは2万円程度であり、仕事ぶりに応じて、それに付加報酬が追加されることになっています。(親族や市民後見人の場合、報酬額はこれより低くなる傾向にあります。)

 東京家庭裁判所等の「成年後見人等の報酬額のめやす」によると、専門職後見人が管理している財産額が1千万円以下の場合、報酬額は月額2万円程度とし、身上保護等に特別な困難があったり特別な行為をしたりした場合は、これに付加報酬を加算することとしています。

※詳細は下記のページをご覧ください。(パスワードは各受講生にお送りしたメールに記載されています。)

4-2.後見人の費用と報酬

 この報酬額が妥当か否かについては、事案によって異なってくるように思われます。

 報酬額をめぐっては、「法律専門職の後見人は、財産管理だけして、あまり身上保護を行っていない人が多いわりには報酬額が高い」といった利用者(またはその親族)の不満が散見されます。
このことから、後見人が十分な身上保護を行っていない場合、利用者等には報酬額が割高に感じられるようです。

 いくつかの市民後見法人の運営状況をみると、どこも財政状況は厳しいようですが、何とか黒字経営を保っている所が多いという印象です。
 一般に、市民後見人はボランタリーで社会活動を行うため、報酬についてあまり多くを求めない傾向にあります。そのため、市民後見法人の人件費は比較的低く抑えることができているようです。

 

 

2. 法定後見制度 Ⅰ・Ⅱ
 髙村浩(弁護士)

質問1

質問 回答

 社会福祉法人の、当該社会福祉法人が提供するサービス利用者の後見業務受任に関する質問です。知的障害者からすれば、全く知らない後見人に後見(特に身上保護)をしてもらうより普段から顔見知りの社会福祉法人(職員)に後見をしてもらうほうが安心感があると思います。
 ただ、サービス提供社会福祉法人と利用者の関係からすれば、利益相反や利益誘導は起こりやすい環境であることも事実で、多くの家裁は、上述の関係の場合、社会福祉法人の後見人受任を認めていません。
 なんらかの、利益相反や利益誘導を防止する策を講じれば(後見監督人の選任、弁護士を中心とした第三者評価委員会など)の後見受任は可能か、それとも、難しいのかご教授ください。

 また、現在検討が進んでいる、第二期の成年後見制度利用促進専門家会議の議論の中に、この利益相反に関する具体的な検討は行われているのか併せてご教授ください。

 知的障害者の成年後見制度利用者は、全体の2,3%程度に過ぎず、この利用する社会福祉法人が後見人受任ができるようになれば、利用者は飛躍的に増加すると思うのですが。

  この点は、平成11年改正当時に後記のような議論があった点です。

 本人が入所している施設を経営する法人については、欠格事由(民法第847条)として規定すべきであるという意見もありましたが、一律に欠格事由とはせず、民法第843条4項の解釈に委ねることとした上で、そのような法人が単独で包括的な代理権を有する成年後見人となることは、不適当という解釈が示されています。他方で、無料の介護サービスを提供する場合、複数後見であって権限が分掌されている場合、補助人のように権限が限定されている場合、後見監督人によって補完できる場合等には選任する余地がある旨の国会答弁があります。このような解釈の下では、本人が入所している施設を経営する法人であっても、補助人、保佐人又は成年後見人(後見監督人付きで)に例外的に選任される可能性があるのではないかと思われます。

 しかし、例えば、成年後見人として、本人が入所している施設を経営する法人と他の者を選任して、複数後見とした上で、その法人については「身上保護」についてだけ権限を与えたとしても、「身上保護」の意味にもよりますが、施設サービス計画への同意が「身上保護」に含まれるとすると、その法人は、一方では、(その職員を履行補助者として)施設サービス計画を作成し、他方では、成年後見人としてそれに同意することになりますが、これは利益相反になると考えられます。
 また、施設サービスの提供に係る苦情の申立ても「身上保護」に含むとすると、その法人は、一方では、成年後見人として自身の施設サービスに苦情を申立て、他方では、施設の運営主体として苦情対応を行うことになって、これも利益相反になります。苦情に至らない施設サービスの提供に係る要望であっても、例えば、居室替えの要望であっても、これも「身上保護」に含まれるとすると、その法人は、一方では居室替えを要望し、他方ではその要望に対応する関係になるので、利益相反の可能性が生じます。
 そこで、これらについては後見監督人に行わせるのであれば、最初から、その法人以外の者を成年後見人に選任しておいた方が、本人の利益にかなうのではないかという疑問が生じます。後見監督人を選任すると、その報酬の負担が発生するという問題もあります。
弁護士等の第三者委員は、法律上の制度ではない上に、やはり、その報酬の負担が発生するという問題があります。

 例えば、親が死亡して、施設に入所している本人が不動産等を相続した場合に、本人が入所している施設を経営する法人を補助人又は保佐人として選任し、遺産分割等の相続の手続についてだけ権限を与えれば、利益相反の問題は回避できるかもしれません。しかし、遺産分割等の相続の手続について、その法人は専門知識等をもっていて適性があるのか、遺産分割で取得した財産についてその後の管理は誰がするのか等の問題が生じえます。
 また、障害福祉サービスの提供自体が非常に重要かつ困難な仕事であるのに、その法人は、このような手続に時間と労力を割くべきなのか、障害福祉サービスの提供と後見事務は分業にした方が本人の利益にかなうのではないかという疑問も生じます。

 法人の代表者については、法人の場合と同様に考えることになると考えられます。法人後見と言っても、社会福祉法人の理事会の年間の開催数及び実際の機能等を考えれば、代表者(理事長)の専決による個人後見に近い実態になる可能性も考慮する必要があります。
 その他の役員又は職員については、法人の場合に準じて判断することになると考えられます。職員については、その地位又は権限が一様ではなりませんが、法人と雇用関係にあってその指揮命令を受け、法人のサービス提供義務の履行を補助する地位にあること、現在は、本人の担当者ではなくても異動して担当者になる可能性があること等を考慮する必要があると考えます。なお、労働時間内の後見事務は、法人がその労働義務を免除しない限り行えないのではないか、賃金と後見報酬を得ることは場合によっては二重の受領にならないか等の労働と後見の関係が問題になる可能性もあります。

「第二期成年後見制度利用促進基本計画」(令和4年3月25日閣議決定)(厚労省のWebサイトの成年後見制度利用促進のコーナー参照)を読む限り、以上の点については、特にふれられていないようです(同計画のⅡ2(2)参照)。

(国会会議録検索システムによる第145回国会衆議院法務委員会会議録第19号30頁から)(一部省略し、下線を記入)

○木島委員 ・・・どういう人が後見人に選任されるか、決定的に重要だと思うんですね。被後見人等の財産が正しく守られるかどうかが、どんな人たちが後見人に選ばれるかによってある程度決められると思うからです。  それで、民法八百四十三条第四項ですが、利益相反にある個人や法人をそういう後見人から排除するということが非常に必要だろう。この制度をつくるに当たって多くの団体や個人からも、ぜひ、利益相反にある個人や法人は後見人に選任してはならないという排除の明文上の規定が必要だということが意見として言われていたと思うのです。そういう事件も起こっているからだと思うんですね。ところが、この法案は、そこまでは明文の規定を置かずに、裁判所が後見人を選任する選任の理由の中の一つに利害関係の有無を判断材料にするという程度にとどめているんですね。これはぜひ、利益相反にある個人や法人は後見人にしてはならない、そのぐらいのきちっとした規定があってもいいんじゃないかと私は思うのですが、そこまで規定を置かなかった理由は何でしょう

〇細川政府委員 明確に利益相反の関係にある人を後見人等に選任することは、これは適当でないことは明らかでございます。  ただ、この条文は、後見、保佐、補助すべてにわたって他の方でも準用されている規定でございますし、また、利益相反ということは非常に幅広い概念でございます。配偶者であっても、一定の例えば分割相続等に関しては利益相反する場合もあるわけですから、利益が相反する場合はこれを一切後見人にできないということにされてしまうと、これはやや硬直的な制度になってしまう。そこで、そういったものを重要な考慮要素として考慮していただいて、最終的には家庭裁判所の適切な判断をまちたいというのがこの規定の趣旨でございます

 

(国会会議録検索システムによる第146回国会参議院法務委員会会議録第3号11頁から)(一部省略し、下線を記入)

○橋本敦君 そこで、法人の問題についてちょっと検討させていただきたいと思うんです。 法案によりますと、法人も成年後見人はもとより任意後見人、後見監督人、これに就任ができる、こうなっております。そこで、受任者である法人と本人との間に利益相反関係があるような場合はどうするか、そういう問題がやっぱり起こるんですね。法人はいずれの受任者にもなれないという制約がそこまで必要かということになりますと、これまたそれだけでいいのかという問題も出てきます。この点は法八百四十三条第四項によりますと、利害関係の有無を考慮するという規定になっております。ここで言う利害関係の有無を考慮するというのは、具体的にどういう場合にどういう判断がなされ、利益相反行為については何らかの基準ということを考えた、そういった基準というようなものがどこかにあるのかどうかという問題も一つは検討する必要があるかなという気もするんですね。ここらあたり、民事局長はどうお考えでしょうか。

○政府参考人(細川清君) これは、利益相反という用語が非常に幅広い概念でございます。したがいまして、少しでも利益相反がある場合にはすべて後見人あるいは後見監督人等になれないということになりますと、制度としては非常に硬直的になるだろうというふうに考えているわけなんです。それで、よく問題になりますのは、例えば施設に入所されている痴呆性高齢者の方がおられて、その方の後見人をする場合に、その施設の代表者がこれに適当かどうかという問題になりますと、後見人は包括的代理権を持っていますし、経営者は御本人と契約していて料金を徴収することになっているわけですから、そういう場合には明らかに不適当だということで、裁判所は後見人を選ばないと思います。ただ、そうでなくて、先ほど厚生省から若干お話しされましたが、例えば無料の介護サービスというのがございますね。そういう場合には必ずしも利益相反とは言えない場合もあります。それから、法定後見人が二人いるという場合で、それぞれ分掌すればその相反の問題は回避できる。それから、補助人の場合には権限が狭いものですから、その狭い範囲では利益相反が起きないということが言えると思います。ですから、そういうことで、やはりこれは裁判所の適切な御判断に期待するのが適当であるということで、それを考慮事項として挙げたわけでございます

○橋本敦君 だから、そういう意味では、この利害関係の有無を考慮するという法の規定は、ある意味で言えば裁判所に包括的な権限を委任するということであるわけですね。だから、明確な基準というのはなかなか難しい。そこらあたり、最高裁としては、どういう姿勢でこの八百四十三条四項の運用をやっていくのが適当かというようなことで、検討、研究されているような状況がございますか。局長、いかがですか。

○最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) ただいま御指摘の点は、まさに個々の事案ごとにおいて裁判所が判断すべき問題ということになろうかと思っております。その意味では、今、民事局長から説明があったようなことを個々の事案ごとに考慮しながら、まさに利益相反ということで後見人とするのはふさわしくないというふうに判断するか、さらにその利益相反の問題があるにいたしましても、後見監督人を選任することによって補完ができるとか、複数選任することによって分掌ができるとか、こういった措置がうまくとれるかどうかということも含めて検討していくことになろうかと考えているところでございます。 以上でございます。

○橋本敦君 実際に施設で老人の財産を不当に占奪したというようなそういったケースも起こっているという状況があるものですから、国民的な不安と関心というものもこれについてはやっぱりあるんですね。 九六年の関東弁護士会連合会の高齢者の財産管理に関するアンケート調査結果というのがありますが、これによりますと、福祉関係者が担当したケース一万二千九百一件中、預金通帳、権利証等を施設または職員が保管しているのが五千五百二十六件、福祉関係者が保管しているのが三百二十件、四五%にも上っているという実情があるという報告があります。 法務省の民事局参事官室の要綱試案に対する意見照会の結果の概要というのが出ておりますが、ここでも、利益相反関係にある法人及びその代表者、使用人を排除する明文規定を設けるべきであるとする意見が多数と記してあります。これは事実だと思うんですね。排除する明文規定を設けるべきだという意見が五十、慎重ないし消極が五にとどまったというのが法務省の資料を見ると書いてあるんですけれども、日本障害者協議会、社会福祉協議会、このいずれも利益相反ということについて、成年後見人になることが適当でない場合があることに十分留意してほしい、あるいは福祉施設を経営する社会福祉法人については利益相反の問題から慎重に対応すべきという意見が出されている。 こういう意見があったというのは、民事局長、これは間違いないですね。

○政府参考人(細川清君) 御指摘のとおりでございます。

○橋本敦君 そういう面で、こういう意見があったんですが、排除する明文規定を設けるべきだという意見が五十にも上っている。慎重意見、消極意見は五である。 そこで、明文規定としてもう少しここのところをはっきりと規定する工夫がなかったのか。明文規定で厳格に禁止というところまで行かなくても、単に利害関係の有無を考慮するという八百四十三条四項程度じゃなくて、もう少し具体的な規定の仕方がなかったのか。そこらあたりの議論や結果はどうなんですか、民事局長。何か知恵があったように私は思うんですけれどもね。

〇政府参考人(細川清君) いろいろな御意見を伺いまして、いろいろ審議会等でも御意見を伺いまして、やはり最終的には、民法という基本法なものですからある程度抽象的にならざるを得ないということで、これはやはり裁判官の英知に期待するのが、結果的には最も妥当な結果が出るのではないかというのが最終的判断であったわけでございます。

質問2

質問 回答

 医師として、後見の診断書を書くことがある立場ですが、後見制度についてもっと理解したいと思い受講しています。

 診断書を記載する際に、判断能力を「欠く(後見)」「著しく不十分(保佐)」「不十分(補助)」というのが正直わかりにくく、これまで迷うことが多かったです。
 MMSE 14点以下が後見、15-17点が保佐などと記載されているものもありますが、あくまでアルツハイマー型の認知症の場合と思われ、幻視や認知機能の変動が問題になるレビー小体型認知症や、脱抑制や遂行機能障害が問題となる前頭側頭型認知症などは、MMSEでは契約や財産管理の能力は診断できないように思います。

 先生が講義中におっしゃっていた、後見は助けてもらう必要性すらわからない人、保佐は積極的な財産行為をして失敗する人、補助は助けてもらう必要性がわかる人 という説明で、違いが納得できました。

 一方で、あくまで医学的な診断をする医師が、「患者さんが成年後見制度をどのように利用するのがよいか」まで意識して、診断書を書くのが望ましいということでしょうか。
あるいは、家庭裁判所で、「3判定能力についての意見」だけでなく、「判定の根拠」も重視されるので、医師はそこまでどの類型に該当するかは意識しないでも大丈夫だったりするのでしょうか。

 本人情報シートはこういった悩ましい時のためにあるのだと思うのですが、提供を受けたことはない気がします。

 医師が診断書を書く際、(他の方々からしたら)医師に診断書を依頼する際に、意識した方がいいこと、必要な情報等、ご教授いただけますと幸いです。

 後見、保佐又は補助の類型の選択(補助人への同意権又は代理権の付与、保佐人への追加的同意権又は代理権の付与)は、申立人による申立てを前提として、診断書又は鑑定書の内容等の情報をもとに家庭裁判所が最終的に判断をします。
 「成年後見制度における診断書作成の手引き」(最高裁判所事務総局家庭局、平成31年4月、最終修正令和3年10月)においても、後見、保佐又は補助のいずれかが相当であるかについての意見を求める形にはなっていません。

 ただし、「3 判断能力の意見」のうち、「支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することが難しい場合がある」は一般的には補助に対応し、「支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない」は一般的には保佐に対応し、「支援を受けても、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない」は一般的には後見に対応すると説明されています(12頁)。

 このため、これらの意見の選択は、一般的には、後見、保佐又は補助の選択に対応し、その意見の選択を通じて、間接的に、後見、保佐又は補助のいずれかが相当であるかについての意見を示す形になっているとも言えます。

 実際にも、診断書の作成に当たっては、後見、保佐及び補助の各類型についての基本的な理解のもとに、判断能力の意見を選択することが、本人の自己決定を尊重した過不足のない保護につながると考えます。

 例えば、診断名を認知症として、「判定の根拠」の⑷の記憶力の障害の有無のところで、「過去の記憶」について「ときどき障害がみられる」にチェックした場合の判断能力の意見の選択について、単純化した例で考えてみます。

 仮に、契約時には、契約の意味・内容を自ら理解し、判断することができるとしても、契約自体を忘れてしまう状況であれば、契約の履行(代金の支払等)もその相手方への請求(代金の請求等)もできず、また、契約の瑕疵を理由にその解消を求めることもできず、財産上の不利益から本人を保護できないため、補助、保佐又は後見のいずれかによる保護が必要になります。そして、「ときどき障害がみられる」の内容が、記憶の再生の手掛かりとなる話をすれば思い出すことができる程度のものであれば、そのような話をするという「支援」を受ければ、(補助人又は保佐人の存在と)契約を思い出すことができるので、補助人又は保佐人の同意権・取消権でも保護が可能であって、後見による保護は過剰な保護になるかもしれません。
 しかし、そのような支援(保護)を補助人から受けるためには、本人がその必要性を理解しており、補助開始の申立てをするか、それに同意をする必要があります。もし、その必要性を理解できない状態であれば、補助開始はできないため、少なくとも保佐が必要ということになり、判断能力の意見の選択としては、一般的には保佐に対応するとされている「支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない。」(にもかかわらず、その支援の必要性を理解できないため、支援を受けることができない。)ということになるかもしれません。

 単純化した例ですが、このように、各類型の保護の内容・手続についての基本的な理解のもとに、記憶障害等の障害又は症状と各類型の保護の内容・手続を照らし合わせながら、判断能力の意見を選択することが、本人の自己決定を尊重した過不足のない保護につながると考えます。
 ただし、上述したとおり、類型の選択(補助人への同意権の付与等の保護の内容)については、家庭裁判所が最終的に判断をします。

  「本人情報シート」については、「第二期成年後見制度利用促進基本計画」(令和4年3月25日閣議決定)(厚労省のWebサイトの成年後見制度利用促進のコーナー参照)において、「本人情報シートは、適切な医学的診断や適切な後見人等の選任にとって有益であり、後見等開始の審判において多くの事案で提出されている。他方、本人情報シートが、裁判所には提出されているが、診断書を作成する医師に提供されていない事案が一定数あることから、家庭裁判所には、専門職団体や市町村・中核機関等とも連携し、作成された本人情報シートが確実に医師に提供されるよう、申立人に対するわかりやすい説明や関係者への更なる周知などに取り組むことが期待される。また、最高裁判所には、本人情報シートの活用の状況や実態の把握に努め、本人にとって適切な後見人等の選任・交代が促進されるよう、専門職団体や福祉関係者等の関係者と連携し、本人情報シートの更なる活用に向けた方策(例えば、申立後の本人情報シートの活用、「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」の様式等の併用)を検討することが期待される。」(同計画17~18頁)とされています。

 「医師が診断書を書く際に意識した方がいいこと」としては、診断書の作成を依頼する人は、後見開始等の審判を望んでいるため、その望みに沿った情報を重点的に医師に提供することがあります。医師として十分な情報と時間を得られず、また、得られた情報の信用性をテストする機会が十分に得られないこともあるかもしれませんが、成年後見制度は本人の保護になる反面でその自由を制約する面もあるため、できるだけ客観的な情報を得て診断書を作成して頂くことが必要ではないかと考えます。また、前掲の手引きに記載されているとおり、診断書が開示の対象になることについてもご留意が必要です。

 「必要な情報等」としては、成年後見制度の現在の運用については、裁判所がWebサイト等で公表している前掲の手引き等の資料が重要です。少しずつ内容は変わっていますので、随時ご確認ください。
 平成11年改正法については、立案担当者による解説書が基本的なものになります。最も詳細なものは、小林昭彦他『平成11年民法一部改正法等の解説』(法曹会、平成14年)ですが、品切れのようですから、ご関心がある場合は古書をお探しください。同じように詳細なもので、平成11年改正後の情報も盛り込まれた小林昭彦他『新成年後見制度の解説(改訂版)』(きんざい、2017年)は、現在も販売されているようです。
 精神鑑定についての著書であって、平成11年改正法前のものですが、西山詮『追補改訂版 民事精神鑑定の実際』(新興医学出版社、1998年)があります。しかし、これも品切れのようです。

質問3

質問 回答
(事務局が講師に代わって回答)

 先日の講義では、具体例を挙げていただきながら、わかりやすく説明していただきありがとうございました。
 時間の都合もあったと思いますが、レジュメ集91ページの内容に関して、講義中に細かく確認ができなかったため、「図表26:成年後見人、保佐人、補助人に選任された者の割合」に関して質問をさせてください。

質問1:
 親族割合が減っている背景にはどのようなことがあるのでしょうか。

 平成12年度には91%ほどあった親族の割合が、令和3年では20%まで落ちてきています。
 この理由としてはどのようなものが挙げられるのでしょうか。この講義の後の「市民後見概論(市民後見人の活動と支援)」では、候補者への判断基準の変化が「専門職後見でなくても出来るケース」から「市民後見人だからできるケース」と変化してきたためとの説明があります(レジュメ集106ページ)。親族割合が減少している理由が、より専門職を求められてきたため、と理解しておりますが、どのような背景で専門職がより求められる結果になったのかを説明していただけないでしょうか。
 また、親族が選任されなかったためにトラブルもあるとの説明もありましたが、どのような理由で親族がなれないかを教えていただけますか。親族が後見人になれる場合となれない場合にはどのような違いがあるのか、明確な基準等あれば教えていただきたいと思っています。

 

質問2:
 この市民後見人養成講座の受講歴が法定後見人の選任の時に加味されたりするのでしょうか。

 今回の受講理由のきっかけとして、親族から、軽くですが「そのうち後見人になってもらいたいかなぁ・・・」と言われ、後見人とは何かを調べているうちにこの市民後見人養成講座があることを知り、受講に応募しました。例えば、この市民後見人養成講座を受講することで、法定後見人に選任される確率は高くなるのでしょうか。それとも後見人の経験等がないと加味されないのでしょうか。経験等がないと法定後見人には選任されないという場合は、後見人の話が出てきた時には、任意後見で話を進めるべきかと思っています。

 よろしくお願いいたします。

質問1:
 親族後見人の選任件数の割合が年々低下している(逆に専門職の選任件数の割合が年々増加している)理由としては、主に以下のものが挙げられるように思われます。

①単身世帯や身寄りのない高齢者等の増加により、本人の後見人となるべき親族が見当たらないケースが増えています。

②親族後見人による不正が多いことから、家庭裁判所が親族後見人の選任に消極的になっており、第三者後見人(特に専門職)を選好する傾向にあります。

③制度発足時(2000年)は後見人になる専門職は少なかったですが、その後、専門職が選任されるための環境が徐々に整ってきています。例えば、弁護士、司法書士、社会福祉士等の職能団体は、組織的に、団体の会員に対して研修を行ったり、各会員の後見活動の監査を行ったり、家庭裁判所に後見人候補者(後見受任を希望する会員)の名簿を提出したりしています。

 本人の資産が多い場合、親族後見人による不正の発生を回避するために、家庭裁判所は法律専門職を後見人に選任する場合が多いようです。(あるいは後見監督人をつけるか、または後見制度支援信託(ないし後見制度支援預貯金)を利用させます。)

 上記については、申立人(本人の親族)が本人の親族を後見人等候補者としたうえで後見等開始を申し立てたところ、専門職が後見人に選任された場合、申立人が強い不満(親族後見人が拒否されたことへの不満)を抱くことが多いようです。

 詳細については、下記のページもご参照ください。

8.成年後見制度の現状と課題

 

質問2:
 当講座の修了生等によって設立された市民後見法人に話を聞くと、当該法人が後見等開始の申立てを行う際、後見人等候補者は当講座の修了生である旨、家庭裁判所に伝えているそうですが、その点は裁判所から評価されているようです。(当講座を修了している方が選任される確率は高まるようです。)

 ただし法定後見の場合、後見人は家庭裁判所が職権で選任し(家裁が自由に決定できる)、かつ不服申立ても一切できないことになっているため、当講座を修了しているからといって必ず後見人に選任されるわけではありません。

 将来的に親族の後見人なることが予定されている場合は、当該親族と任意後見契約を結んでおくのが確実なように思われます。

 

 

3. 後見人の実務Ⅰ・Ⅱ
 木原道雄(司法書士)

質問1

質問 回答

 お世話になっております。

 11/12(土)2限 後見人の実務の講義内で使用したレジュメの資料で、例えば23ページ資料5の主文3手続き費用は申立人負担であるのに、29ページ資料10の手続き費用は成年被後見人負担となっています。

 講師の方の説明では申立人負担(成年後見人)となっているのは後見人が立て替えたりするのでなく台帳につけてそこから支出すると講義内で説明してくださいました。

(1)申立ての度に費用がかかるのか
(2)費用がかかるなら相場はどれくらいか
(3)講師の方の説明通り、台帳につけて被後見人の財産から支払うのであればなぜ全ての審判の文書で申立人が費用負担すると記入されず、29ページは成年被後見人になっているのか

 細かい事ですが何か理由があるのか疑問に思ったので質問させていただきます。

 よろしくお願い致します。

 申立費用については、成年後見人が、弁護士や司法書士に書類等の作成を依頼し、費用請求された場合は成年後見人の負担となります。
 もし、難しい申立てで弁護士や司法書士に依頼する場合は、事前に家裁に相談し、申立時にその費用を被後見人の財産の中から支出できるよう打ち合わせをしておけば良いと思います。

 また、印紙代が800円かかるので、その費用についても取り扱いはどうするか家裁に相談し、申立てをすればよいと思います。

 申立てが必要な状況が発生した場合は、事前に家裁に報告してから申立てしますので、費用等も含めて相談や打ち合わせを家裁としておくことをお勧めします。
 私も家裁に事前に状況報告と相談をしています。
 各家裁によって取り扱いも違いますので、確認しておいてください。

質問2

質問 回答

 先日は貴重な講義を頂きありがとうございました。

11月12日の講義の中で後見人が郵便物を郵送する場合、裁判所への様式22,23の提出し許可が必要であるとのお話でしたが、それぞれの職業後見人については守秘義務についての罰則規定が異なるようなのですが、弁護士が後見人であっても郵便物の転送について様式22、23の提出が必要なのでしょうか。
 家庭裁判所に確認したところ、そのような書類はないと言われました。

 また、保険請求等の業務を後見人ではない者(例えば後見人の従業員)などに依頼する場合、家庭裁判所への委任状などの提出があれば代行可能なのでしょうか。
 または委任状そのものが不要なのでしょうか。

 質問が多く申し訳ございません。
 お忙しいとは思いますが、ご返答のほど宜しくお願いします。

(1) 郵送物の転送許可
 郵便物については、憲法第21条第2項後段の「通信の秘密はこれを侵してはならない」を根拠として後見人といえどもかってに転送等することができません。
 弁護士だからできる、司法書士だからできないというものではありません。
 憲法の権利を制限してでも保護する利益がある場合に家庭裁判所の許可を得て許されるものです。
 したがって、「成年被後見人に宛てた郵便物等の回送嘱託申立」があります。
 裁判所のホームページにも「成年被後見人に宛てた郵便物等の回送嘱託申立書」と検索していただければ見つかると思います。

(2) 委任状について
 後見業務は、後見人のみが行うことができることなので、他に依頼する場合は、委任状が必要です。
 市民後見人の講座なので、市民後見人となる方が受講していると思いますが、市民後見人で従業員を置いていることがイメージできません。
 もし、NPO法人や一般社団法人を設立して法人として後見を受任するというのであれば、その法人の従業員であれば法人から委任状をもらう必要はないと思います。
 ただし、保険会社や金融機関から、従業員として法人から業務権限を受けているのかどうかの確認証類は求められるかもしれません。

質問3

質問 回答
(事務局が講師に代わって回答)

 お父さんが統合失調症の娘の後見業務を行い、専門職等はその相談に乗ったり、確認、報告書の提出だけを担うような複数後見場合には、専門職等は報酬付与の審判を申し立てますか?
あるいは減額するよう上申しますか?

 実際、お父さんが実務を担っている間は報酬は頂きにくいということはありませんか?

 そもそも複数後見において、「専門職等はその相談に乗ったり、確認、報告書の提出だけを担うような複数後見」という形での権限分掌を行うことはほとんどないように思われます。(このような役割を専門職に担わせる場合、家庭裁判所は専門職を監督人に選任する可能性が高いように思われます。)
 親族と専門職の複数後見において、よくみられる権限分掌の態様は、専門職後見人が財産管理に関する権限を分掌し、親族後見人がそれ以外の権限(つまり身上保護の権限)を分掌するというものです。

 そして、専門職後見人が後見の事務を行った場合、(事務の内容にかかわらず)特別な事情がない限り、報酬付与の審判の申立てを行うのが通常です。

 なお、実質的に親族後見人が後見事務のほとんどを担い、専門職後見人はそれを支援するような事務しか行っていないという場合、家庭裁判所は専門職後見人のそのような事務の内容を考慮したうえで報酬額を決めることになろうかと思われます。

※報酬の詳細については下記のページをご覧ください。(パスワードは各受講生にお送りしたメールに記載されています。)

4-2.後見人の費用と報酬

 

 

 

4. 後見人の実務 Ⅲ
 中道基樹(行政書士)

質問1

質問 回答

質問1:
 課題3の場合、死後事務について、保佐人の場合で、親族が関わらないと確定した場合、代表相続人から依頼(契約)を受任することはできるということで良いですか。
 また、その場合で報酬を払えないと言われたらどのようにしたら良いですか。

質問2:
 保佐人が施設入所について代理権を持っている場合、親族は施設入所に関する契約をすることはできないということで良いですか。

質問1:

 報酬については、被保佐人の財産から支出するのが一般的かと思います。そのため、死後事務が終わるまで、通帳などを引き渡さず、管理します。

質問2:
 はい。契約書に署名したりするのは保佐人が原則です。かと言って、施設を勝手に決めるわけでもありませんし、契約時にご家族が同席したりするのは問題ないです。

 

 

5. 後見関連制度・法律 Ⅰ(介護保険)
 土屋幸己(コミュニティーネットハピネス 代表理事、認定社会福祉士)

質問1

質問 回答

質問1:
 介護保険が適用されるのは16種類の疾病のみであるということですが、先生が例に挙げられたように交通事故や、他の要因によって介護を受けるような生活になる人はかなりいるのと思うのですが、そのような人の経済負担については何か対象となり受給できる制度はあるのでしょうか。

質問2:
 また、上記に関連して、介護サービスは行政が指定・監督を行っているということが書かれていますが、介護保険の対象とならない疾病をもつ人の場合であっても、介護のサービスを受けるためには介護認定申請をしなければいけないのでしょうか。
 逆に言えば、行政を通さず、実費を払うのでいいから私的に契約して介護を受ける、ということはできるのでしょうか。

質問3:
 介護サービスの中に住宅改修が挙げられていますが、その他のサービスについても、自分が希望してもその必要がないと判断され、そのサービスを受けられないことというのはあるのでしょうか。

質問1:
 40歳から64歳までの人が介護保険サービスを利用できるためには、介護認定が必要になるのでそれに該当するのが16種類の特定疾患になります。
 一方で交通事故や他の疾患で65歳以前に介護が必要になった場合は、障害認定を受けることで障がい支援サービスを受けることができますし、条件に該当すると障害年金を受給することができます。
 20~64歳で障害認定されれば障害サービス利用が原則で、65歳以上になり介護認定が出た場合は、障がいサービスと同様なサービス(ホームヘルパーやデイサービスなど)があれば介護サービスが優先的に利用できることになります。

質問2:
 40歳~64歳までは特定疾患に該当しないと介護サービス利用はできませんが、65歳以上人は、どのような疾患やADLの低下であっても要介護認定を受けることが可能なので、実際に介護が必要であれば、申請し認定されます。
 65歳以上で介護認定を受け介護サービスを利用する場合の費用負担は標準額で1割負担となります。要介護度により1割で利用できる上限が決められており、上限を超える場合は10割負担になります。
 10割支払えば、事業所が了解すれば介護サービスを利用することはできますが、利用料が高額になったり、事業所には入所人やデイサービス等の定員が定められているのでその利用は現実的ではありません。介護認定が非該当になった場合は、入所施設等は介護保険以外の有料老人ホームや会費老人ホーム等や有償のヘルパー制度(旧家政婦)を利用したほうが安上がりになります。

質問3:
 ケアマネのプランが適性を欠いている場合には、行政がその適正を判断しサービスの給付を制限することもあります。
 本人の希望は優先されますが、保険適用の趣旨に反している場合は給付適正化事業で判断しますので判断によっては希望通りのサービスが受けられないこともあり得ます。

 

 

6. 後見関連制度・法律 Ⅱ(生活保護)
 梶野友樹(内閣官房 参事官)

質問1

質問 回答

質問1:
 生活困窮者自立支援制度に、第2のネットと記載があり、生活保護と階層が違いますが、つまりは、自立支援制度にある事業は生活保護受給者は受けることができないということで宜しいのでしょうか。

質問2:
 無料低額診療事業について、生活保護受給者には医療扶助がありますが併用できるのでしょうか。主な基準のところに患者総数が10%以下、との記載がありますが、どの時点で自分が10%以内に入るとわかるのですか。この制度は後から還付されるようなものなのでしょうか。

質問1:
 生活困窮者自立支援制度は、御指摘のとおり最後のセーフティネットの生活保護制度の前の第2のセーフティネットであり、両制度は制度上支援対象者が異なるため、御指摘のように生活保護受給者が生活困窮者自立支援制度の事業そのものを受けることはできませんが(注)、生活保護制度には、もともと、生活困窮者自立支援制度の事業等と同趣旨の、就労支援事業や家計改善支援事業等があり、また、ケースワーカーによる相談、住宅扶助等の制度があるため、それらの事業や扶助をを受けることができるようになっています。
(注)一方、子どもの学習支援事業は、支援対象者が生活保護受給者本人ではなくその児童ですので、受けることができます。

質問2:
 御指摘の「以下の者の合計患者数(延数)が、取扱総患者数(延数)の10%以上であること」という基準は、(受診する方の基準ではなく)医療機関に適用される基準です。税制上の優遇措置等もあるため、この事業を行う医療機関が満たさなくてはいけない要件となります。
 生活保護受給者は、指定を受けている全国のほとんどの医療機関で医療扶助を受けることができ、これらの医療機関には無料低額診療事業を行っている医療機関も通常含みます。
 医療扶助は全額公費負担であり、生活保護受給者の負担はありません。  

 

 

7. 後見活動の事例 Ⅱ(市民後見)
 上田佳代(成年後見普及協会 代表理事)

質問1

質問 回答

質問1:
 事例のように自己破産が検討されるような方や、そもそも財産がマイナスという方も多いと思うのですが、そうした方の後見の場合、報酬はどのようになるのですか?
 裁判所が決定して報酬がでると習いましたが、そもそも財産に報酬を支払う余地が残っていなかったらボランティアになるということなのでしょうか。それとも、その人以外の第三者機関、つまりは国や行政が払ってくれるのですか?

質問2:
 先生がおっしゃっていたように、被後見人、親族の方がお亡くなりになったことがどうして後見人などに知らせが来るのか、ということが疑問です。
 警察や行政に後見人等がついていることを知らせなければいけない、ということにはなっていないと思うのですが、しばらく連絡がつかなかったからこちらから関係機関に問い合わせたら判明した、施設に入所していたりケアマネさんが毎日通っているから気付いた、というならわかるのですが、どうしてその逆のルートが判明して、警察などから知らせが来るのかわかりません。

質問3:
 今回の事例を通して、法定後見人となって支援された方々についてお話をお聞かせいただきましましたが、そのように、事前に任意後見契約が結ばれておらず、法定の後見等制度が適用されることになるケースの場合、私たちがなろうとしている市民後見人が支援にかかわる余地はあるのでしょうか。

質問1:
 成年後見制度利用支援事業により、利用にかかった費用の全部または一部が助成されます。
 高齢者・障害者分野で根拠法がありますので、ご確認ください。

※参考
厚労省
 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000100568.pdf

消費者庁
 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/caution_018/pdf/caution_018_180905_0008.pdf

 また市区町村のHPで成年後見制度利用支援事業実施要項がありますのでご確認ください。
 地域によって相違がありますので、利用されるときは、ご本人の住所地のものをご確認ください。

質問2:
 警察は身元捜索により、親族(関係者)を探し出します。警察については通常業務ではないかと思います。
 事例の件に関しては、弟の連絡先から保佐人がついていることが判明し、当方に連絡があったものです。
 被後見人の場合は職務上、施設や病院、親族から連絡は来ます。

質問3:
 もちろんあるかと思います。
 後見の活動は、ご本人との間の閉じた活動ではありません。ご本人が住み慣れた地域で自分らしく暮らしていくために、いろいろな関係機関と連携を持ちながら職務を遂行していきます。
 地域包括システムが示すように、フォーマル、インフォーマルを問わず、地域でのネットワークを作り地域で支援していけることこそ市民後見人の価値となるかと考えます。

質問2

質問 回答

 現行の成年後見制度や後見人についてのトラブルにおける相談窓口があれば教えてほしいです。
 裁判所は、自身が任命した後見人業務や後見報酬について問題があっても認めようとせず、その権限は、地方裁判所に一任されており、問題があったとしても外部に漏れることはないように思います。
 こういった状況の中で安心して相談できる公的な第3者機関はありますでしょうか。

 中核機関が担うのではないでしょうか。
 https://www.mhlw.go.jp/content/000503191.pdf

 

 

8. 後見実務の演習
 飯間敏弘(東大助教)

質問1

質問 回答

 成年後見の「利益相反」の場合、後見人に代わり、後見監督人が選任されいる場合は後見監督人が、選任されていない場合は、特別代理人が代理するとありますが、後見監督人が選任される場合、特別代理人が選任される場合、それぞれどのような場合でしょうかご教授ください。

 本人が所有する金融資産が多い等の場合、主に不正防止の観点から、後見監督人が選任される場合が多いようです。
 そして、後見人等が利益相反行為を行う必要が生じたときに、すでに後見監督人がついていた場合は、(後見人等ではなく)当該監督人が権限を行使することになります。
 他方、後見人等が利益相反行為を行う必要が生じたときに、後見監督人がついてなかった場合は、特別代理人(または臨時保佐人か臨時補助人)の選任を申し立てて、選任された特別代理人等が権限を行使することになります。

質問2

質問 回答
 レジュメ集P195 「後見人等に代理権が付与されても、本人は当該行為を行うことができるし、また本人の行為能力は一切制限されない」という部分の理解が難しい。
 成年被後見人となると、後見人は包括的な取消権を有し、そうすると本人は制限行為能力者となる(P184)と記載されており、その整合性がよくわかりません。

 例えば補助類型において、(補助人に同意権が一つも付与されていない場合)補助人にどれだけ代理権が付与されても本人の行為能力は一切制限されません。ただし、例えば補助人に「不動産の売却」に関する同意権が付与された場合、本人は「不動産の売却」について行為能力が制限されます。
 また、後見類型においては、成年後見人には包括的な取消権が付与されていますので、当該行為(取消権が付与されている行為)について本人の行為能力が制限されます。

 

 

9. 後見関連制度・法律 Ⅲ(遺言・民事信託)
 遠藤英嗣(弁護士、地域後見推進センター理事長)

質問1

質問 回答

 12/17(土)の後見関連制度・法律Ⅲでの家族信託についての質問です。

① 家族信託の制度と後見制度の違い等教えていただきましたが、家族信託の場合、その内容は公正証書にしておく必要がありますか。
② また、信託監督人はどのような人が就任し、受託者監督の方法はどのようにするのでしょうか。

 2点、よろしくお願いします。

① 基本は、公正証書によるべきです。
 法は、要式行為を求めていませんが、受託者は、信託金融資産(金銭)につき、分別管理義務を負っています。
 その分別管理は、基本は金融機関に「信託口」口座を開設して分別管理します。その信託口座開設金融機関は、公正証書でないと、口座を開設してくれません。
 それが理由です。

② 信託監督人について
 家族信託契約の場合は、信託監督人ではなく、受益者代理人を選任します。信託の資産が多い場合は、双方を置きます。
 そこで、どんな人かというと、信託監督人も、受益者代理人も、同じです。基本は、親族で、受託者にものが言える、しっかりした人です。クレーマーは駄目です。
 そのような人がいなければ、士業です。税理士、司法書士ですが、場合によっては、弁護士です。もちろん、市民後見人のNPO法人も可能です。

 

 

10. 家族法の基礎(相続)
 片岡武(弁護士、地域後見推進センター執行理事)

質問1

質問 回答

 遺言では100%すべて相続人のうちの一人に相続させるとの遺言が可能、有効ということですよね。でも遺留分があるとのことですが、「遺留分侵害額請求」とあるということは、請求してない限りは、相続人の一人が100%相続してしまうことも可能ということで良いのでしょうか。

 また、その「遺留分侵害分の請求」というのは「遺留分減殺請求」という言葉と同じ意味ですか?この請求については、調停や審判は、相続人全員の合意が必要ですが、家裁への裁判は、相続人のうちの一人で自由に訴えることができるというのでしょうか。
 仮にこの理解が正しかったとして、裁判中は調停が行えない、などの利用制約はあるのでしょうか。

 遺産分割「協議」と呼ばれるものは、今回の調停と審判の二つのこと、この一連のものということでしょうか。世の中的には、外部には誰にも知られないまま、内輪で自分たちで話し合って、自分たちで名義を変えたりして終わってしまうことも多い?と思うのですが、そうした自分たちでの話し合いも「遺産分割協議」という言葉に該当する行為なのでしょうか。

1 民法は、遺留分を有する者による遺留分の主張を、個々の遺留分権利者の自由意思に委ねています。遺留分権を有していても、これを行使することを希望しない者は、遺留分を主張しなくてもよいです。遺留分を主張しない場合は、受遺相続人が100%相続を受けることになります。

2 民法が改正されて、制度の枠組みの構成が変わりました。遺留分制度の枠組みにつき、遺留分を侵害する遺贈・贈与を「減殺」して、相続財産を回復するという法的構成から、遺留分権の行使によって、「遺留分侵害額に相当する金銭の給付」を目的とする金銭債権を生じるものとしました。減殺と侵害額請求とは同じではありません。

3 調停・審判の申立ては、相続人が一人でもすることができます。申立てについては全員の同意はいりません。もっとも、事件を進めるには、相続人が全員当事者にならなくてはいけません。
 たとえば、相続人が4人いて、その1人が申し立てた場合、残りの3名を相手方とすることになります。

4 遺留分紛争の解決手段として、まず、全員が協議のすえ、侵害額に相応する金銭を支払う合意ができれば、早く解決できます。そして、遺留分に関する協議が調わないとき、法制度としては、まず調停を申立てるものとされています。
 遺留分は家族間紛争ですから、まず、原則として、調停から始めるものとされているのです。これを調停前置主義といいます。そして、調停が不成立の場合、事件は終わり、訴訟(地方裁判所)で解決することになります。したがって、遺留分紛争において、調停と訴訟が両立することはありません。

5 他方、遺産分割においては、まず、当事者間において、協議を行い、話がつけば、遺産分割協議書を作成して、登記、名義変更等をすることになります。内輪で話をつけるということです。
 この話し合いが成立しないとき、調停前置主義に基づき調停が先行し、そして調停による話し合いができなければ、審判手続となります。審判手続においては、裁判官が判断をします。訴訟で解決することはできません。
 協議、調停、審判は、解決手続として段階的なものとなっています。

 

 

99. 講座全般に関する質問

質問1

質問 回答

 認知症などにより成年後見制度を利用する際に、申立ての時点では補助や保佐相当でも、認知症の進行により後見相当になることなどもあるかと思います。
 例えば、11/13 3限 課題3(看取り)の時点では後見相当と思いますが、補助や保佐から後見に変更(再度申立ですか?)する事例もあるのでしょうか。

 補助や保佐の申立の時点では必要なかった行為の代理権が必要になった際などのみ手続きをするなどなのでしょうか。

 今まで、後見相当に該当しないと制度利用自体を迷う事例も多い様な印象を受けていたのですが、今回勉強し、自己決定の尊重、残存能力の活用という理念からは補助や保佐こそ適切に利用されるべき様に思います。
 認知症の進行に対しては、どの様に対応していくのがいいのでしょうか。

 例えば、被補助人の認知症が進行して後見相当の状態になった場合、後見開始の審判の申立てをすることになります。
 他方、本人の精神状態は変化していない状態で、代理権や同意権が必要になった場合は、代理権または同意権の付与の審判の申立てを行います。

 自己決定の尊重などの理念を踏まえると、安易に後見類型を選択するのではなく、本人の状態に応じて、まずは後見類型以外の選択肢を検討するのが望ましいと思われます。

質問2

質問 回答

法定後見開始申立等演習についての質問です。

質問1:
 P198 24行目 被相続人(江森一郎さん)となっていますが、亡くなった兄の高木一郎さんのことでよいでしょうか?

質問2:
 申立事情説明書も自分の名前で作成した方が良いでしょうか、もしくは高木麻理さんの名前で作成した方が良いでしょうか。

質問1:
 その通りです。
  江森一郎さんとなっているのは誤字で、正確には高木一郎さんです。

質問2:
 本事例の申立人は高木麻理さんですので、通常、申立事情説明書の作成者は高木麻理さんになります。市民後見人は、申立人(高木麻理さん)が申立事情説明書を作成するのを支援するという立場になります。

質問3

質問 回答

 選択課題を考える中で相続について不明な点がありましたので教えてください。
 講義で「相続の際は後見人等が必要になる」と数回お聞きした記憶があります。

質問1:
 軽度の知的障害・精神障害者で簡単なやり取りが出来る成人、法定相続人の争いはなく法定相続分を相続する際も後見人等はつけるのでしょうか。

質問2:
 軽度の知的障害・精神障害者で簡単なやり取りが出来る成人が相続の際、後見人等をつけなければいけないのはどのような条件の時でしょか。

 12/17の講義内でご説明いただけるかもしれませんが、軽度の知的障害者・精神障害者について詳しく教えていただきたいので質問させていただきました。
 よろしくお願いします。

質問1:
 「法定相続人の争いはなく法定相続分を相続する」(つまり本人が損失を被らない)ことが決まっている場合は、特に後見人等をつける必要はないように思われます。

質問2:
 一般論として、「軽度の知的障害・精神障害者で簡単なやり取りが出来る成人」は、遺産分割協議において自己の正当な利益を主張することが難しく、本来得られるべき相続分を得ることができない結果となる可能性が高いといえます。その観点からいえば、軽度の精神・知的障がい者の場合であっても後見人等をつけた方が適切である場合が多いということができます。
 ただし、後見人等をつける場合は一定のコスト(後見報酬等)やリスク(質の悪い後見人がついてしまう等)が生じますので、実際に後見人等をつけるか否かは、コストと利益を比較衡量したうえで判断することになろうかと思われます。
 なお、当該精神・知的障がい者に支援者(親族、知人、専門職など)がいて、その支援者が遺産分割協議をサポートしてくれる場合は、後見人等をつける必要性は小さくなるでしょう。

質問4

質問 回答

 11/27の「後見実務の演習」に関連する質問です。

 代理権の付与における制限として、保佐・補助の場合、包括的付与や予防的付与は禁止とありますが、任意後見を移行型で契約する場合、任意代理契約と任意後見契約での目録には包括的な内容で記載しておき、その後実情に応じて本人と相談しながら運用を広げていくということはできるのでしょうか。

 移行型任意後見契約の場合、委任契約および任意後見契約における代理権の範囲を広めに規定しておくことが多いようです。その主な理由としては、代理権を狭く規定してしまうと、代理権を付与されていないがゆえに受任者または任意後見人が必要な事務を行うことができないといった事態が生じるのを避けるためと思われます。

 委任契約の場合、本人(委任者)はまだ十分な判断能力を有しており、本人の事務の内容をチェックすることができるので、代理権の範囲を広くしていても問題は生じないでしょう。また、本人と相談しながら運用を広げていくことも可能でしょう。
 (ただし、本人の判断能力が低下した後でも、任意後見監督人選任の申立てをせずに、受任者が広範な代理権を用いて権限濫用するという問題が生じてしまう可能性はあります。)

 他方、任意後見の場合、本人の判断能力が大きく低下している場合は、本人と相談しながら運用を広げていくということは難しいでしょう。ただし、任意後見監督人の定期的なチェックが入りますので、広範な代理権を付与していても任意後見人が権限濫用するという問題は生じにくいでしょう。

 

 

 

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