10月20日講義の最後に認知症デイの管理者の方から利益相反行為についてのご質問がございました。
似たような質問なのですが、私はケアマネジャーですが、私が所属する法人の居宅介護支援事業所(さいたま市)にてケアマネジャーとして担当している利用者様について、さいたま市岩槻区で市民後見人の業務を行う、というケースの場合、ケアマネ=市民後見人、という立場になるかと思います。
ご本人の意思も確認し医師も参加の上、病院内のカンファレンス等にて、施設入所やデイサービス利用の必要性の合意が取れた、として、私が所属する法人運営の有料老人ホームにご紹介したりデイサービスにケアマネとしてサービス計画書を作成し後見人として代理する、といったことは利益相反行為の可能性が高いと考えてよろしいでしょうか?
そもそも、このケースに限らずですが、別法人施設または別法人デイサービスへのご案内なら、同地域での、同じ利用者様(であり委任者)のケアマネジャー兼市民後見人というケースは可能なものでしょうか。
以上よろしくお願い致します。
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① ケアマネジャーが自分の担当する利用者の成年後見人に就任した場合
この①の場合であっても、居宅介護支援等の介護契約は、介護サービスを提供する法人と利用者との間の契約であって、ケアマネジャーと利用者との間の契約ではありませんから、ケアマネジャー兼成年後見人と利用者本人とは、利益相反の関係に立つことはないという考え方もあり得ます。
なお、民法第843条4項は、成年後見人の選任に当たっては、「成年被後見人との利害関係の有無」を考慮しなければならないと規定していますが、この①のような場合については特に規定はしていません。
しかし、例えば、ケアマネジャーが、自分で作成したケアプランについて、その利用者の成年後見人として同意することは、「利益が相反する行為」(民法第860条・第826条1項)になりうると考えられます。また、この1の場合は、ケアマネジャーとしての職務と成年後見人としての職務の混同が生ずるおそれもあります。例えば、ケアマネジャーがその利用者の居宅を訪問したとき、その訪問は、ケアマネジャーとしての訪問なのか、成年後見人としての訪問なのか区別ができなくなるおそれがあります。サービス担当者会議への出席も一人二役になります。
以上に対し、本質問の場合に、ケアマネジャーが、成年後見人として、その所属する法人との間で、入所契約等の介護契約を締結しても、それは、法人と成年後見人との契約ですから、一人二役のケアプランの作成・同意等の場合とは異なります。
しかし、ケアマネジャーは、その所属する法人との間の雇用契約に基づき、その法人から指揮命令を受ける立場にあります(法人の利益を図る立場にあると言えます)から、成年後見人として、その利用者の利益を図ることができるかという問題は生じます。ケアマネジャー自身の法人内での立場や法人の利益への配慮が優先して、契約を締結するのではないかという問題です。また、そのケアマネジャー自身は、その利用者の利益を図って契約を締結したつもりでも、その所属する法人の利益を図る立場でもあることから、利用者の親族等の関係者からは、利用者の利益を図っていないと疑われるおそれもあります。この意味で、その所属する法人との間で、入所契約等の介護契約を締結することは、「利益が相反する行為」とは言えなくても、少なくともその疑いをもたれる関係はあると言えます。
利用者本人の同意があれば、この問題が解消できる可能性はありますが、後見が開始されている以上、その同意の有効性は問題になり得ます。介護サービスに係る契約は利用料等の財産上の負担を伴いますから、医師等のサービス提供者は、この問題を解消する立場にはないと考えられます。
② ケアマネジャーが、その担当外ではあるが、その所属する法人のサービスの利用者の成年後見人に就任した場合
この②の場合では、一人二役によるケアプランの作成・同意や職務の混同等の問題は、基本的には生じないと考えられます。ただし、配置転換等によって担当になる可能性はあり、配置転換等を拒否又は回避できるか、担当になった場合の対応等の問題が発生する可能性は残ります。
そして、担当ではなくても、ケアマネジャーは、その所属する法人との間の雇用契約に基づき、その法人から指揮命令を受ける立場にあることに変わりはなく、①の場合と同様に、成年後見人として、その利用者の利益を図ることができるかという問題はやはり生じます。例えば、その法人のサービスについて、成年後見人として、苦情を申立てることができるか、転倒等の事故が発生した場合に損害賠償請求ができるかという問題です。ケアマネジャー自身の法人内での立場や法人への配慮が優先して、これらを躊躇うのではないかという問題です。また、そのケアマネジャー自身は、その利用者の利益を図っているつもりでも、その所属する法人と利害が衝突するような立場に身を置いていることから、利用者の親族等の関係者からは、利用者の利益を図っていないと疑われるおそれもやはりあります。このため、①の場合と同様に、利益相反とは言えなくても、少なくともその疑いをもたれる関係はあると言えます。
③ ケアマネジャーが、その所属する法人のサービスの利用者ではない地域の住民の成年後見人に就任した場合
この③の場合では、①又は②の場合のような問題は、基本的には生じないと考えられます。もっとも、地域によっては、その住民が、ケアマネジャーが所属する法人のサービスの利用者になる可能性はあり、その場合は、①又は②の場合と同様の問題が発生する可能性は残ります。
④ まとめ
以上の次第ですから、介護関係の職員であって、市民後見人になろうとされる方は、①又は②の場合は、その候補者となることを避けた方が良いでしょう。市町村長申立ての場合は、候補者の人材が限られていること等もあって、これらの場合であっても候補者とし、裁判所もその申立てどおりに選任する可能性がありますが、利用者本人のためにも、市民後見人が難しい立場に立たされないようにするためにも、これらの場合は避けた方が良いでしょう。
なお、成年後見人を複数選任し、特定の成年後見人による介護契約が利益相反になる、又はそのおそれのある場合は、他の成年後見人が契約するという方法もあり得ますが、現実的で簡明な方法と言えるかは疑問があります。
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