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地域後見推進プロジェクト

共同研究
東京大学教育学研究科生涯学習論研究室+地域後見推進センター

講師への質問と回答

目次:

1. 成年後見制度概論: 飯間敏弘
2. 市民後見概論: 品川成年後見センター
3. 法定後見制度 Ⅰ・Ⅱ: 髙村浩
4. 後見人の実務 Ⅰ: 木原道雄
5. 任意後見制度: 阿部正幸
6. 知的・精神障がいの理解:佐多範洋
7. 後見実務の演習 Ⅰ: 飯間敏弘
8. 後見関連制度・法律 Ⅲ: 樽見英樹
9. 後見人の実務 Ⅲ: 遠藤英嗣
10. 地域福祉と権利擁護 Ⅱ: 曽根直樹
11. 地域福祉と権利擁護 Ⅲ: 佐々木佐織
12. 後見活動の事例 Ⅱ:上田佳代
13. 後見関連制度・法律 Ⅳ:小野寺信哉
14. 身上保護の実務:水島俊彦

 

※講師のご都合等の事情により、いただいたご質問にご回答できない場合(または事務局が講師に代わってご回答する場合)がございますので、ご了承ください。
※回答は各講師の個人としての見解であり、各講師が所属する組織等の見解ではございませんので、その旨ご了承ください。
 

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1. 成年後見制度概論
   飯間敏弘(東大助教)

質問1

質問 回答
 1限の牧野篤先生と3限の飯間敏弘先生ともに「成年後見の3つの理念」(①自己決定権の尊重、②残存能力の活用、③ノーマライゼーション)を述べられました。
 この「成年後見の3つの理念」は法律条文でしょうか?行政文書または裁判所用語でしょうか?
引用元があれば教えてください。
 「成年後見の3つの理念」につきましては、法律条文でも行政文書でも裁判所用語でもございません。
 あえて言えば、いわゆる講学上の概念と言うことができ、当該理念は、成年後見に係る領域において、通説として広く一般に理解されている概念と言うことができます。
 したがって、特に特定の引用元もございません。

質問2

質問 回答

 事実行為の積み重ねの上に、法律行為をあることを教えてくださり、ありがとうございました。
市民後見人として、身上保護を中心に働く上でとても考えさせられました。

 しかし一方で、専門職後見人や法人後見事業所のサイトや書籍には、成年後見人は事実行為はしませんと記載されています。パンフレットのイメージ図にも、後見人が被後見人のいないところで、1人で考えているイラストが掲載されているものもあります。
 こうした後見人は事実行為はしない考えが、訪問回数の少なさにもつながっているものと思っています。

 しかし後見人が何をしているのか、被後見人にも、被後見人を支援する人たちにも知られていないことは、「後見人は何をする人なのかわからない」というサービス側の認識にもなっています。
 具体的には、後見人は面会にくるけど介護をしてくれないというサービス提供側の不満や、たまに来てこずかいを渡しにくる人であって、まさかサービスの内容に意見しにくる人とは思ってもみないなどの誤解です。

 そこで後見人は法律行為をするために事実行為をするものだと認識がサービス提供側に理解されるためには、具体的にどのように動いていけばよいのか、教えていただけるとうれしいです。

 サービス提供者において、少なからぬ人が「後見人は何をする人なのかわからない」という認識を持っているとのことですが、以下のような説明をサービス提供者に行っていけばいいように思われます。

(1)後見人の職務は基本的には法律行為(金銭管理、契約、役所での諸手続等)を行うことであり、事実行為(ヘルパーや介護者等が行っているような仕事(介護、掃除、買物、料理等))を行うことではない。

(2)ただし、適切な法律行為を行うために必要な事実行為は行う必要がある。例えば、①本人の心身や生活の状況を把握するために定期的に面談する、②締結したサービス提供契約が契約通りに履行されていない場合、適切に履行するようにサービス提供者に対して(本人の代理人として)主張する、などの行為が挙げられる。

 上記を踏まえ、例えば、誰かから「後見人は介護や世話もやってくれるのか?」と問われれば、「後見人は介護や世話をする人ではなく、介護や世話をしてくれる人の手配(契約等)をする人だ」と答えればよいですし、また「後見人は法律行為だけを行って、事実行為は一切しないのか?」と問われれば、「後見人は適切な法律行為を行うために必要な事実行為は行う必要がある」と答えればよいでしょう。

 

 

2. 市民後見概論(市民後見人の活動と支援)
 品川成年後見センター

質問1

質問 回答

  2024年10月20日の講義を受講させていただきありがとうございます。下記のご質問事項が3点ございます。
①行政と密に連携がとるために社協様として特に尽力したことは具体的にはどういったことでしょうか?
②私はケアマネジャーなのですが、後見人として月に一度の訪問の具体的内容は、ケアマネジャーの行うモニタリングのようなもの、と考えていいのでしょうか?
③品川のような.市民後見人の支援があまりない地域の場合は、どのように活動していけばいいとお考えでしょうか。
 以上、よろしくお願い致します。

 回答は下記のPDFをご覧ください。

 品川成年後見センターによる資料

 

3. 法定後見制度 Ⅰ・Ⅱ
 髙村浩(弁護士)

質問1

質問 回答

 10月20日講義の最後に認知症デイの管理者の方から利益相反行為についてのご質問がございました。
 似たような質問なのですが、私はケアマネジャーですが、私が所属する法人の居宅介護支援事業所(さいたま市)にてケアマネジャーとして担当している利用者様について、さいたま市岩槻区で市民後見人の業務を行う、というケースの場合、ケアマネ=市民後見人、という立場になるかと思います。
 ご本人の意思も確認し医師も参加の上、病院内のカンファレンス等にて、施設入所やデイサービス利用の必要性の合意が取れた、として、私が所属する法人運営の有料老人ホームにご紹介したりデイサービスにケアマネとしてサービス計画書を作成し後見人として代理する、といったことは利益相反行為の可能性が高いと考えてよろしいでしょうか?

 そもそも、このケースに限らずですが、別法人施設または別法人デイサービスへのご案内なら、同地域での、同じ利用者様(であり委任者)のケアマネジャー兼市民後見人というケースは可能なものでしょうか。
 以上よろしくお願い致します。

① ケアマネジャーが自分の担当する利用者の成年後見人に就任した場合

 この①の場合であっても、居宅介護支援等の介護契約は、介護サービスを提供する法人と利用者との間の契約であって、ケアマネジャーと利用者との間の契約ではありませんから、ケアマネジャー兼成年後見人と利用者本人とは、利益相反の関係に立つことはないという考え方もあり得ます。
 なお、民法第843条4項は、成年後見人の選任に当たっては、「成年被後見人との利害関係の有無」を考慮しなければならないと規定していますが、この①のような場合については特に規定はしていません。
 しかし、例えば、ケアマネジャーが、自分で作成したケアプランについて、その利用者の成年後見人として同意することは、「利益が相反する行為」(民法第860条・第826条1項)になりうると考えられます。また、この1の場合は、ケアマネジャーとしての職務と成年後見人としての職務の混同が生ずるおそれもあります。例えば、ケアマネジャーがその利用者の居宅を訪問したとき、その訪問は、ケアマネジャーとしての訪問なのか、成年後見人としての訪問なのか区別ができなくなるおそれがあります。サービス担当者会議への出席も一人二役になります。

 以上に対し、本質問の場合に、ケアマネジャーが、成年後見人として、その所属する法人との間で、入所契約等の介護契約を締結しても、それは、法人と成年後見人との契約ですから、一人二役のケアプランの作成・同意等の場合とは異なります。
 しかし、ケアマネジャーは、その所属する法人との間の雇用契約に基づき、その法人から指揮命令を受ける立場にあります(法人の利益を図る立場にあると言えます)から、成年後見人として、その利用者の利益を図ることができるかという問題は生じます。ケアマネジャー自身の法人内での立場や法人の利益への配慮が優先して、契約を締結するのではないかという問題です。また、そのケアマネジャー自身は、その利用者の利益を図って契約を締結したつもりでも、その所属する法人の利益を図る立場でもあることから、利用者の親族等の関係者からは、利用者の利益を図っていないと疑われるおそれもあります。この意味で、その所属する法人との間で、入所契約等の介護契約を締結することは、「利益が相反する行為」とは言えなくても、少なくともその疑いをもたれる関係はあると言えます。

 利用者本人の同意があれば、この問題が解消できる可能性はありますが、後見が開始されている以上、その同意の有効性は問題になり得ます。介護サービスに係る契約は利用料等の財産上の負担を伴いますから、医師等のサービス提供者は、この問題を解消する立場にはないと考えられます。

② ケアマネジャーが、その担当外ではあるが、その所属する法人のサービスの利用者の成年後見人に就任した場合

 この②の場合では、一人二役によるケアプランの作成・同意や職務の混同等の問題は、基本的には生じないと考えられます。ただし、配置転換等によって担当になる可能性はあり、配置転換等を拒否又は回避できるか、担当になった場合の対応等の問題が発生する可能性は残ります。

 そして、担当ではなくても、ケアマネジャーは、その所属する法人との間の雇用契約に基づき、その法人から指揮命令を受ける立場にあることに変わりはなく、①の場合と同様に、成年後見人として、その利用者の利益を図ることができるかという問題はやはり生じます。例えば、その法人のサービスについて、成年後見人として、苦情を申立てることができるか、転倒等の事故が発生した場合に損害賠償請求ができるかという問題です。ケアマネジャー自身の法人内での立場や法人への配慮が優先して、これらを躊躇うのではないかという問題です。また、そのケアマネジャー自身は、その利用者の利益を図っているつもりでも、その所属する法人と利害が衝突するような立場に身を置いていることから、利用者の親族等の関係者からは、利用者の利益を図っていないと疑われるおそれもやはりあります。このため、①の場合と同様に、利益相反とは言えなくても、少なくともその疑いをもたれる関係はあると言えます。

③ ケアマネジャーが、その所属する法人のサービスの利用者ではない地域の住民の成年後見人に就任した場合

 この③の場合では、①又は②の場合のような問題は、基本的には生じないと考えられます。もっとも、地域によっては、その住民が、ケアマネジャーが所属する法人のサービスの利用者になる可能性はあり、その場合は、①又は②の場合と同様の問題が発生する可能性は残ります。

④ まとめ

 以上の次第ですから、介護関係の職員であって、市民後見人になろうとされる方は、①又は②の場合は、その候補者となることを避けた方が良いでしょう。市町村長申立ての場合は、候補者の人材が限られていること等もあって、これらの場合であっても候補者とし、裁判所もその申立てどおりに選任する可能性がありますが、利用者本人のためにも、市民後見人が難しい立場に立たされないようにするためにも、これらの場合は避けた方が良いでしょう。
 なお、成年後見人を複数選任し、特定の成年後見人による介護契約が利益相反になる、又はそのおそれのある場合は、他の成年後見人が契約するという方法もあり得ますが、現実的で簡明な方法と言えるかは疑問があります。

質問2

質問 回答

 講義において、被後見人のために成年後見制度があることを教えていただき、ありがとうございました。

 施設などの福祉サービスと契約するだけであれば、財産管理で対応できる。
しかし適切にサービスが行われているかの確認、適切に行われていないときの苦情の申し入れなど被後見人の生活を守るために身上保護があると教えていただきました。

 しかし専門職後見人や法人後見事業所のサイトや書籍では、身上保護とは契約することだと説明されています。そこにはサービス内容を確認することも、そうした後見人の働きが虐待防止に役立つことも書かれていません。
 こうした身上保護への意識の低さが、専門職後見人による訪問回数の少なさにつながっており、訪問先の施設からすると、後見人は何をする人なのかわからない。たまに来てこずかいを渡していく人程度の認識になっているように思っています。
 市民後見人として働く上で、後見人が何をする人なのかサービス提供側に理解されていないことは、施設を訪問する上で妨げにこそなりますが、プラスに働くことはありません。

 そこで身上保護とは、サービスの確認や苦情申し立ても含むことを、施設側に理解してもらうためには具体的にどのように動いていけばよいのか、教えていただけるとうれしいです。

 民法は、成年後見人の職務について、「成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務」と規定しており(第858条)、「財産管理」と「身上保護」に二分して規定してはいません。また、民法は、「身上保護」という用語を使用もしていません。そして、「身上保護」の意味について、確定的な定義もありません。

 例えば、最高裁判所が毎年公表している『成年後見事件の概況』では、「申立の動機」として、「身上保護」と「介護保険契約」を区別して記載しています。また、介護契約については、その契約が継続的なものであって、利用者の心身の状態等も変化することから、定期的に又は随時、入所先の施設を訪問する等して、その心身の状態等に応じた適切な介護サービスが提供されているかを確認する必要がありますが、これは、介護契約に基づく、介護サービス事業者の債務の履行の確認又は確保という意味での「財産管理」として考えることも可能です。このため、成年後見人として、「身上保護」という言葉を使用する必要性はないとも言えます。

 成年後見人の職務の内容及び範囲については、介護サービス事業者側に事前に説明することが必要又は適切ですが、「身上保護」という言葉を用いても理解はされず、むしろ、その言葉からは「介護」も含むように連想されるおそれすらあります。このため、「身上保護」という言葉の使用の有無にかかわらず、できるだけ、具体的に説明することが必要又は適切です。
 例えば、介護契約の締結、更新、変更及び解除、サービス担当者会議への参加、ケアプラン等の計画への同意・不同意、日用品の購入又は私物の洗濯の有無、苦情の申立及び利用者負担分の支払い等です。また、「身元引受人」になるか否か、身体拘束の手続への関与の有無及びその方法、転倒等の事故が発生し、又は容体が悪化した場合の連絡先及び連絡方法、受診又は入退院の必要が生じた場合の受診等の手続への関与及びその方法(受診又は入退院の際の同行等)等についても、できるだけ具体的に話し合っておくことが必要又は適切です。

 

4. 後見人の実務 Ⅰ(後見開始時の申立て、就任時の事務)
 木原道雄(司法書士)

質問1

質問 回答

 先生のように利用者本人の意思決定を支援したり、関係者と連携をはかって利用者本人の利益のために活動されている話を聞くことができたのは、とても感動しました。
 一方で、専門職後見人のなかには、自らの事務所運営の経費ときて、後見報酬を安定収入としてとらえ、できるだけ何もしない、利用者本人に会いにいくことすらしない後見人がいることも事実です。
 そこで先生のように、利用者本人のために活動しつつ、事務所を安定して運営していくためには、一人の後見人でおよそ何件くらい受任するのが目安となるのか、教えていただけるとうれしいです。

 私は司法書士であるため、後見以外にも登記業務などもあります。後見でかかわった方々や被後見人が無くなった後の相続登記などがあります。
 被後見人の意思決定に積極的にかかわることで、その被後見人にかかわっている皆さんから声をかけてもらえるようになっています。
 そのようなことで事務所経営は何とかなっています。
 医療、福祉、介護の義理堅い方々に支えてもらっています。

 

5. 任意後見制度
 阿部正幸(公証人)

質問1

質問 回答

 任意後見制度について、後見活動に携わる専門職後見人のサイトでも宣伝がなされています。
しかしほとんどのサイトにおいて、任意後見契約には、家庭裁判所が選任した任意後見監督人が必ずつくこと。そして任意後見監督人への報酬や事務費用を利用者本人が支払うことの説明がなされていません。

 これでは、任意後見契約や利用者本人と、利用者本人が選んだ後見人とだけが関係する契約のように誤解を与えてしまうのではないかと思うのですが、先生はこの現状についてどのように考えられているのか教えていただけると、任意後見契約について説明するときの助けになります。

1 任意後見契約に関する法律第2条第1号は、任意後見契約が「任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めがあるものをいう。」と規定しており、同法第7条第4項は、任意後見監督人の報酬について、法定後見人の報酬について定める民法862条(家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる。)を準用しています。
 報酬付与のためには、任意後見監督人が家庭裁判所に報酬付与の申立てをする必要がありますが、ほとんどの事案においては任意後見監督人に弁護士、司法書士などの専門職が選任され報酬が付与されています。また、任意後見監督人の職務追行費用(交通費、郵送代、コピー代などの実費)も、委任者本人の財産から適宜受け取ることができます(任意後見契約に関する法律第7条4項で準用する民法861条第2項)。

2 後見活動に携わる専門職後見人のサイトを詳しく見たことはありませんでしたが、ご質問に基づき、いくつかのサイトを見てみたところ、ご指摘のとおり、任意後見契約締結後に任意後見契約が発効したときは任意後見監督人に対する報酬等の支払が必要であることの記載のないものが少なからずありました。
 顧客誘引のためのサイトにどこまでの情報を記載すべきかはともかくとして、任意後見契約を締結した後にいかなる報酬の支払義務が生じるかは、契約当事者にとって、任意後見契約を締結するかどうかを判断するための重要な情報であるといえますから、そのような説明がないままに任意後見契約を締結させた場合、紛争の基になるおそれがあります。
 したがって、少なくとも、任意後見契約を締結するまでの間のいずれかの時点で、任意後見監督人に対する報酬等が発生することを契約当事者に説明するべきでしょう。

3 任意後見契約は公正証書によってしなければならないとされています(任意後見契約に関する法律第3条)。私は、任意後見契約公正証書作成の際には、公証人が、契約締結前に、契約当事者に対し、任意後見契約発効後は任意後見監督人に対する報酬等が発生することを説明すべきであると考えており、現にそのように運用しております。

4 以上のとおりですので、任意後見契約について説明する際には、任意後見監督人が選任されること、任意後見監督人に対する報酬等が発生することについても説明しておいていただければと思います。

 

6. 知的・精神障がいの理解
 佐多範洋(医師)

質問1

質問 回答

 支援者が無理をしないこと、支援者がつぶれないように限界を設定することの大切さがよくわかりました。
その一方で重度の障害のある子どものいる親は頼るところがなくて一人(もしくは夫婦)で子どもを背負い込んでいるケースがあります。 

 障害者支援施設では「強度行動障害」など虐待リスクのある人の利用を断るようになっています。一度目は支援する力がないからやむを得ず断ったのだとしても、その後研修をして受け皿を広げるわけでもなく、虐待リスクのある人や支援者の負担になる人の利用を「断り続ける」こととしています。
 ある自治体の相談支援事業所の会報では、障害者がグループホームに入ることはとてもハードルが高いこと。グループホームに障害者が選ばれる条件は、まずは他害行為や物損がないこと、次に異性介助を受け入れることだと書かれていました。
 また、放課後デイでは手帳を持たないレベルの人を集めてプリント学習させることで経営が成り立ってしまう反面、重度の利用者を断るようになっています。

 支援者が「無理をしない」ことは大切なのですが、これらの事例のように支援力をあげるための努力もしないというのは違うのではないかと思っています。

 しかし福祉でビジネスをしている事業者にとっては、支援者研修など経費がかかることには関心を持たないところがあります。いわゆる「最低限度の支援だけ保障する、文句があるなら他へ行け。代わりの利用者はいくらでもいる」というスタンスの事業所に対して、成年後見人として被後見人の生活の質向上のために彼らに対してどのようなアプローチをとれば効果的と考えられるのでしょうか。

 本質的な質問だと思いますが、答えに詰まってしまいます。

 千葉県でも2013年、袖ケ浦福祉センターで知的障害の男性が虐待の末亡くなったのですが、再発防止の検討委員会によると、そこに県内の重症困難事例が集まっていたことが一つの原因とされていました。
 結局同センターは昨年春に廃止になりましたが、受け皿は十分でなく、家族としても途方にくれる状況がありました。

 行動障害の激しい方のために「児童心理治療施設」(昔の「情緒障害児 短期治療施設」)が全国に整備されていますが、なんと東京にはなく、千葉もやっと最近指定されました。
 ただ、利用者による職員への暴力や設備の破損が日常茶飯事で、退職される職員があとをたたないとも聞いています。

 自分が精神科医になった頃は、まだ今のようにグループホームなどが整備されておらず、知的障害児が産まれたら、うちの家系にそんな子はいないと母親は責められ、親亡き後のために母親たちがお金をためて出し合って施設を作る、みたいなことが全国各地で行われていた時代でした。
 そんな状況をどうにかできないかと思ったのが、精神科医を目指した一つのきっかけでした。(いや何もできないんですけどね)

 その時に比べて、グループホームが全国各地にできつつあり、最低賃金の保証されるA型作業所も増えてきたことに感激しますが、まだまだ圧倒的に数が足りないですし、自法人のグループホームと作業所・デイケアを行き来させ囲い込む貧困ビジネスが横行したり、そもそもノウハウ共有も少なく、保証される収入も少ないため、事業がやりがい搾取的になっている側面も強いように感じます。

 そういう中で個人的に心がけているのは、対応力の弱い事業所やグループホームとも可能な限り連携を取って、まずは事業を継続できるように、困ったケースがあったときに相談しあったり、多くの事業所が関与できるようにケースワーカーと連携したりし、地道にノウハウを共有し、自信をつけて頂くことを目指しています。

 なんだかんだ思いがあってこの事業に参入しているはずですから、その思いが満たされ、更なる事業拡大につながればと思っています。

 なお、私のいる千葉県の海匝圏域(旭市・匝瑳市・銚子市)は、比較的福祉が頑張っているところではあります。
 3回もホームに放火した方を、また退院して受け入れるホームがあったり、道行く人を投げ飛ばして訴訟になっているような方や、殺人事件を起こしたような方を受け入れたりしているのは、本当に頭が下がります。
 でもその背景には、地域の基幹病院である旭中央病院が、定期的に困難事例に対してカンファランスを開いたり、グループホーム生活の定着のために、はじめは病院スタッフが一緒に泊まり込んだり(医師とかも!)していて、やっぱりみんなでどうにかしていこうという土壌があることが、本当に大事なんだろうと思います。

 なお、障害者がグループホームに入るハードルの高さを感じたのは、10年位前ですが、松戸市の方のためにグループホームを探そうとしたら、松戸市に2人分しかないと言われたことがあります。人口50万人ですよ?!

 また、今は分かりませんが、世話人さんたちは委託業務扱いで、週4日泊まり込んでも月収10万行かなかったり、そういう世界で、同性介助の入浴の手を確保することは現実的に困難だと思うのです。
 ただそれでも、日中活動の中で同性介助で入浴できるところを確保できないか、行動障害があり興奮したら止まらなくなる人に対し、お薬を使うことで楽に生活できるようにならないか精神科医と連携ができないかなど、あきらめずに打開策を模索することも大事かなと思います。

 それでもどうやっても支援が組み立てられられず、途方に暮れる時もあるかと思いますが・・・国境なき医師団では、意外と精神科スタッフのニーズも高いそうです。
 言葉もろくに通じないのになぜ?と思いますが、紛争地などで支援していると、何日も命からがらで逃げて、医療がある所に到着するまでに、抱いている子供は死んでいたり、手遅れになっていることが少なくないそうです。
 その時に一緒に涙を流すことしか出来ないのですが、そういう時に寄り添うケアが必要なようなのです。

 なかなかうまくいかなくても、当事者と一緒に悔しさも分かち合いつつ、味方になることを忘れなければ、ベストのケアができるのかなと思います。

 全くまとまらなくてすみません。ご質問ありがとうございました。
 ぜひこれからの学びも活動も、頑張って下さい!

 

7. 後見実務の演習 Ⅰ(後見申立演習の解説)
 飯間敏弘(東大助教)

質問1

質問 回答

 法定後見開始申立のための書類は(演習ではなく実際の書類)どうやって入手しますか?(講義中にご説明されていて、聞き逃していたら、すみません) 

 もし、どこかのホームページからダウンロードできる場合、そのホームページのどのあたりにあるのか、すぐに分かりますか?
 あるいは、うまくダウンロードできない場合は直接、そちらへ取りに伺うことはできるのでしょうか?

 法定後見開始申立のための実際の書類は、下記のサイトでダウンロードすることが可能です。

 後見開始の申立書

質問2

質問 回答

 後見人が被後見人の通院介助をしてもよいのでしょうか。
 たとえばグループホームに入居している被後見人に通院の必要があります。グループホームでは通院介助はできないと断られており、近隣の居宅事業所でも通院介助ができるヘルパーを手配することができないと断られています(どちらも人手不足が理由です)。
 その場合、後見人がグループホームから病院までの往復移動と病院内での診察同行などの通院介助を行ってもよいのでしょうか。
 また、上記のように通院介助をすることが可能として、それを一度や二度ではなく、継続して行うことはよいのでしょうか。

 後見人の職務は基本的に法律行為を行うことにありますが、事実行為を行うことを禁じているわけではありません。
 法律行為を適切に行うために必要な事実行為は行う必要がありますし、それ以外の事実行為についても任意に行うことは可能です。
 したがって、通院介助を行うことは可能ですし、それを継続して行うことも可能です。

 ただし、任意に事実行為を行う場合は、それをやり過ぎて後見人が燃え尽きてしまわないように、余裕のある範囲で行うようにするとよいかと思われます。

 

8. 後見関連制度・法律 Ⅲ(社会保障制度全般、年金)
 樽見英樹(日本年金機構 副理事長、厚労省 元事務次官)

質問1

質問 回答

 今回は受講させていただきありがとうございます。樽見先生は、介護保険黎明期の2000年前後に老健局にいらしたとのことで、下記のご見解を伺いたく、ご質問します。

質問1:介護保険制度の定着に関する質問
 介護保険制度は開始から20年以上を経て、利用者や現場での定着が進んでいる。一方で、成年後見制度については、制度発足から時間が経過しているにもかかわらず、利用者の拡大や理解の浸透が課題とされています。
 このような現状を踏まえ、介護保険制度がここまで定着した要因と、後見制度が地域社会や利用者にとってより利用しやすくなるために、どのような具体的施策が必要だと考えられるか、ご見解を伺えればと思います。

 

 地域共生には、重層的支援が必要とのお話がありました。下記を伺えればと思います。

質問2:地域共生社会の実現可能性に関する質問
 地域共生社会の実現が政策課題として掲げられていますが、地域のつながりが弱くなった背景には、単に疎遠になっただけでなく、つながり自体の必要性が薄れたという側面も指摘されています。
 こうした現状の中で、地域のつながりを再構築し、地域共生社会を実現するために、行政として具体的にどのような施策や支援を講じる必要があるとお考えか、またその実現可能性について見解を伺えればと思います、

 以上、よろしくお願い致します。

質問1への回答:
 介護保険は本当に利用が進みました。これは、高齢化に伴い介護の需要自体が大きく伸びたこともありますが、介護保険制度が始まることによって、もともと公的に供給されていたサービスが契約で利用できるようになり、利用者にとっての透明性が増すとともに言わば市場が形成されてサービス供給自体が増えたこと、や、ケアマネジャーという専門職による相談やサービス利用のアレンジが(その質の問題は一部あるにせよ)定着してきたこと、などによるものと思います。
 成年後見については、介護そのものに比べればもともと需要が限られているとも言えるとは思いますが、しかし、もっと使われてよい制度だと思いますし、利用している人が増え、見えるようになれば更に安心感も高まると思います。そのためには制度の周知広報、特に介護サービスに関わる人たちにもっと知ってもらうことが重要と思います。また、とくに任意後見の利用を増やすこと、任意後見人をサポートし、バックアップする地域のつながりを行政や社協など公的機関が中心となって強化することが大切と思います。(私は今は介護の現場に疎くなってしまっていて抽象的なお答えになってしまうことをお許しください。)

質問2への回答:
 これは難しいご質問ですね。確かに、モノやサービスを得るのも地域と言うよりネットで買う時代ですから、地域におけるつながり自体の必要性が薄れたということはあると思います。しかし一方では、人はそれぞれに何らかのつながりを持っている、それがつながりの性質によって、狭い地域のものだったり、逆に例えば東京全体というようなより広い連絡網を持つものだったりする、と言うことかも知れなくて、そうしたつながりについて行政当局の把握が追い付いていない、と言うことかも知れないなと思います。
 そうした中で、住民が「つながりの意味」を実感できるようにすることが重要であり、そのための「つながり」の規模や機能について、それぞれの地域や住民の状況に即して行政当局が具体的な形を示していくことができればと思います。町内会や自治会といったこれまでの枠組みにとらわれず、趣味の会や学校のつながりなどよりインフォーマルな既存の関係性も、支援の対象となるのではないかと思います。言うは易くして行うは難し、ですが、地域ごとのさまざまな取組に期待したいと思います。

質問2

質問 回答

 全世代型社会保障の実現についてかんがえるとき、共同体事業の脆弱化と人口減による担い手不足は避けられないことと思います。
 もちろん、地域によっては「第4の縁」が生まれている例はありますが、日本全体に普及するほどの勢いではありません。
 また、これまで一部の人たちの努力によって地域活動が熱心だと見られてきた地域であっても、その人たちの高齢者により担い手不足になったとき、代わりを務める人がいない問題も出てきています。
 それは地域活動に関心はあっても、彼らのように熱心に取り組む時間も気力もない人たち。
 また、その他大勢は今まで彼らが無償で熱心に取り組んできた分、同じ地域にあって他人の地域活動によって恩恵を受けるだけの「お客さま」になってしまい、今度は自分が地域活動に参画する意識が持てないケースが大半となっています。

 このように担い手が圧倒的に不足し、回復の見込みがない状況において、担い手を確保し、全世代型社会保障を実現するには、日本人だけの努力ではとうてい無理であって、外国人人材を活用することが必要不可欠になるのでしょうか。

 外国人人材、ということに直ちに行くことにはならないと私は思います。やはり助け合いの中から、ニーズを抱える人も含めて地域の構成員としての意味を感じられるようであるべきだと思いますし、社会というものは本来そうした機能を持っているものだと思うのです。

 先ほどの後半のご質問と同じで、住民が「つながりの意味」を実感できるようにすることが重要であり、それに向けて、それぞれの地域や住民の状況に即して、行政当局はもとより、地域づくりに関わるあらゆる主体が、具体的な形を示していくことができればと思います。

 

9. 後見人の実務 Ⅲ(死後事務、信託)
 遠藤英嗣(弁護士、地域後見推進センター理事長)

質問1

質問 回答

質問1:
 後見制度について、もっとも本人の意思が実現しやすいと言えるのは、家族信託と任意後見契約を組み合わせることでしょうか。
 

質問2:
 また、親なきあと後見を考えるとき、親の意思(大きな変化なく、質素に穏やかに過ごしてほしい)と、さまざな支援を受けたことによって本人の世界が広がり、趣味にかけるお金や好きな場所に出かけるお金がかかるようになった場合、後見人はどのようにバランスをとればよいのでしょうか。

質問1への回答:
 質問の意味が概括的で、答えにはなっていませんが、考え方は次のとおりで、本人が何を求めるのかによって違ってきます。
 成年後見制度の中で、本人の考えや希望を後見人を通じて実現してもらえるのは任意後見制度ですが、後見という枠組みの中での話です。しかし、仕組みは家族信託と違ってしっかりしています。
 家族信託契約は、成年後見制度を補完し柔軟性はありますが、身上保護に関する事務(契約の締結)等は限定されますし、本人名義の預貯金等は管理できません。
 

質問2への回答:
 支援者の考えや本人の学習によって本人が行動する世界は、プラスにもマイナスにも広がりを持つことになります。しかし、成年後見制度においては、家庭裁判所の考えは保守的で、本人が希望したとしても、大きな枠からはみ出ることを嫌うでしょう。本人が旅行したい、スポーツ観戦をしたいと願ったとしても、支援者を必要とする限り実現は難しいと考えられます。裁判所は、随行者の旅費交通費や宿泊費、それからチケット代は、本人のお金から出捐するのは認めないからです。(もしかしたら、将来、多少は変わるかもしれません。)
 そこは、家族信託と任意後見契約をリンクさせて、随行者の分も、信託財産である金銭から自由に出せる仕組みにしておくとよいのですが、委託者(親)が、本人の質素な生活を希望するというのであれば、そこでも限界が生起します。

 

10. 地域福祉と権利擁護 Ⅱ(障がい者福祉・虐待防止等)
 曽根直樹(日本社会事業大学 教授)

質問1

質問 回答

 行動援護サービスに従事している者です。「合理的配慮」の具体例に身体障害の例はよくあがっていますが、「行動障害」への合理的配慮の具体的が乏しいと感じています。
 たとえば公共交通機関を使って移動すると、その人は大きな声で叫び声をあげます。周囲の人はびっくりするどころか、恐怖を覚えるほどの声量で、先日は近くにいた幼児が怖がって泣き出すほどでした。
 大声を出す背景には、見通しが立たないことの不安が考えられますが、障害が重度の場合、文字を理解することができず、時間の概念も理解できないことから、予定がわからないことへの不安を軽減する方法が見つかっていないのが現状です。
 当然ヘルパーが口頭でなだめても不安がまぎれることはなく、叫び声をあげつづけますし、ヘルパーによっては他乗客に恐怖を与えるまでの叫び声に心を痛めて支援を断るケースが後を断ちません。

 このように、見通しが持てない不安などから、周囲が恐怖を感じるほどの大声を出すことに対して、周囲に求める合理的配慮にはどのようなことがあるのでしょうか。

 なお、その人は公共交通機関を使うことが嫌いなわけではありません。むしろ好きな方なのですが、いざ乗車すると叫び声をあげてしまいます。

 「行動援護従事者が、利用者が大声を出した場合に周囲に求める合理的配慮」と理解しました。

 大声の原因が、ご利用者が見通しを持てない不安であるためであった場合は、まず見通しがもてるような工夫をみつけることだと思います。例えば、電車の駅名を書いた路線図を自作して、目的地までの駅を停車するごとにご利用者と確認することで、見通しをもって電車に乗ることができたという例を聞いたことがあります。その他にも、様々な方法があると思いますので、いろいろ試していただけたらと思います。

 そのような工夫も功を奏さずに大声を出してしまった場合は、とにかくその場をしのぐしかないように思います。周囲の人に、なぜ大声を出しているのかを説明することで、理解してもらえることがあるかもしれません。途中の駅で電車を降りて、落ち着いてからまた乗車することもひとつの方法ではないかと思います。

質問2

質問 回答

 障害福祉で働いていますが、虐待を起こすリスクを避けるために、「行動障害」のある人や支援に困ることがある人との利用契約を断る風潮になってきていると感じています。

 ある相談支援事業所の会報では、グループホームに障害者が入ることは非常に狭き門だ。まずは他害行為と物損行為の経験がないこと。それから異性介助を受け入れること。これらをクリアして、はじめてグループホーム事業者に選ばれるスタート地点に立つことができる。とまで書かれていました。
 また、ある短期入所では、長年利用してきた人を、他害行為が発現するようになったことを理由に利用を断った事例もあります。
 このように福祉事業者が虐待リスクを避けて、どんどん守りに入り、「行動障害」のある人が福祉を利用したくても利用できない時代になってきています。

 事業者も人手不足で、人員配置基準を満たすために無資格未経験であっても、だれでもいいから働いてくださる人をかき集めている状況で、とても研修などをする余裕がありません。

 虐待防止法が施行されたことにより、障害のある人への権利侵害に注目が集まったことは有意義なことであると思います。

 しかし本来であれば、虐待になるような支援に困っている状況に介入して、みんなで改善を模索するための虐待防止法であることが周知されず、職場をやめてから通報するなど改善のための通報よりも、虐待した人を罰するための通報といった意味合いが強くなっているように思います。

 虐待防止法の機能として、たとえ虐待が起きたとしても、みんなで改善方法を模索して、次に虐待が起こりにくい事業所への、支援をより良いものへとしていく文化をつくっていくには、成年後見人として何をしていけばよいのでしょうか。

 成年後見人は、本人の代理人ですから、まずは被後見人の立場に立って事業所に意見を言うことではないかと思います。
 被後見人が利用している事業所が、「行動障害」のある人や支援に困ることがある人との利用契約を断る風潮になっている場合は、その結果が被後見人の不利益につながる場合もあるため、「たとえ虐待が起きたとしても、みんなで改善方法を模索して、次に虐待が起こりにくい事業所への、支援をより良いものへとしていく文化をつくっていく」ことを事業所に求めることができると思います。
 事業所の個別支援会議や、相談支援専門員が開催するサービス担当者会議に参加し、どうしたら支援をより良いものにすることができるか、一緒に話し合っていくことができると思います。

質問3

質問 回答

 支援費制度をつくったときに、代理受領にしたねらいは何だったのでしょうか。

 先生がおっしゃられたとおり、利用者である障害者が、受けたサービスの対価を支払うのであれば、福祉事業者はお金を支払ってくれる障害者のことをもっと大切にするようになると思います。もちろん利用者側には煩雑な手続きが増えるかもしれませんが、(お金を支払うことで)事業者から得られる敬意には換えがたいものがあります。それでも代理受領として、大半を行政が支払うことにしたねらいは何だったのか、教えていただけるとうれしいです。

 また、支給決定のプロセスにおいて、支給決定の前に、サービス等計画案の作成を要件にしたねらいは何だったのでしょうか。
 これは申請した人に十分な支給量を決定するためなのでしょうか。

以下、私見になります。

・代理受領として、大半を行政が支払うことにしたねらいは何だったのか?

→①利用者が、高額な立替払いをしなくて済む
 ②事業者が、利用者から集金する手間をなくせる
 ③行政が、個別の利用者に利用料補助の支払いをしなくて済む

 以上の3点が理由として考えられると思います。
 ただし、法定代理受領の趣旨としては、仕組みとして利用者が利用料を支払うことにより、利用者主体の支援が提供されることにつながる、ということだったと理解しています。

 

・支給決定のプロセスにおいて、支給決定の前に、サービス等計画案の作成を要件にしたねらい

→介護保険制度では、要介護認定の結果に応じて、介護保険サービスの区分支給限度額が決まるため、行政による「支給決定」という仕組みはなく、区分支給限度額内で自由にサービスを利用することができます。一方、障害者総合支援法は、障害支援区分に応じて「区分支給限度額」が決まる仕組みではなく、利用者が必要とする個々のサービスについて行政が支給決定をする仕組みとなっています。支給決定するためには、支給決定する対象となるサービスが明確になっている必要があり、その根拠となるのがサービス等利用計画案です。

 

11. 地域福祉と権利擁護 Ⅲ(権利擁護の視点と活動)
 佐々木佐織(東大専門職員)

質問1

質問 回答

 権利擁護支援において、地域住民らに、福祉を必要としている人が持っている権利と、その権利を擁護することをどのように説明し理解を得ていったのかを教えていただけると嬉しいです。

 私は知的障害者支援の仕事をしていますが、従業者に対してですら障害者の権利について教えることに苦心しています。
 支援する人は「自分が人のためになることをやりたい」と思って働いていただけるのはありがたいのですが、「なにもできない障害者のお世話をしてあげる」という意識から抜け出すことが難しいケースが大半です。
 それは障害者への呼び方にも現れていて、社会人としての利用者であることを尊重して「さん」をつけて呼んでくださいと難度も何度も説明しても、「ちゃん」づけやあだ名で呼ぶことをやめられない状況が続いています。なかには慣れ親しんだ「ちゃん」づけの何が悪いの?と反論されることもあります。

 よろしくお願いいたします。

 ご質問、ありがとうございます。

 質問者様は、知的障害者支援の最前線でご活躍とのことで、心強く思います。日々お忙しい中、本講座にご参加いただきありがとうございます。

 私が、地域住民の方に福祉を必要としている人の権利や権利擁護について、共通の認識を持ってもらうために行ったことは、学習の場づくりです。
 障がいや病気等について、正しく理解してもらう、とにかく学びからすべてがスタートすると思っています。

 社協時代は、研修会(寄ってたかって幸せ講座)を企画して、年間シリーズで、知りたい情報・知識を専門家(実践者)から直接学べる機会を設けました。小規模な町でしたが、多くの住民の方が参加してくれました。
 今でも忘れられないのは、障がいに関する研修会の中で、依存症について学んだ際に、ドクターから「依存症は、脳に傷がついている状態」と言われた時は、すごく衝撃的でした。今までの自分の知識、考え方を転換して、どう本人に関わっていくのかを深く考えさせられました。私自身もそうですが、各個人(住民等)が自分で学んで、自分で感じて、腑に落ちることが行動を変え、実践に繋がる近道のように思います。

 それから、とにかく支援者も支援を利用する人も対等な立場であること。例えば、「『知的障害者の佐々木さん』ではなくて、『佐々木さん』です」というところは、伝えさせていただきました。

 福祉の現場でスタッフへの対応は、とても難しい場面が多々あると推察いたしますが、少しでもお役に立てたら幸いです。

 

12. 後見活動の事例 Ⅱ(市民後見)
 上田佳代(成年後見普及協会)

質問1

質問 回答

 法人後見事務所で後見支援員として働いている者です。

 後見活動が一見うまく進んでいるように思えるときに、実は支援者都合で物事が決まっていき、被後見人への権利侵害が起きているかもしれないことを考えさせられました。
 後見活動をしていると、うまくいかないときは悩み、うまくいっているときにも「これでいいのか?」と悩みます。

 また、業務内容は○○をすれば良いと決まっているわけではなく、どこまでやっても終わりがない一面があれば、反対にやろうと思えば「ビジネス後見人」のように、被後見人に会いにいくこともないまま通帳を預かって家裁に報告書を提出するだけのような働き方もできてしまいます。
 また、相談しようにも守秘義務にかかわる部分をどこで線引きすればいいの難しいところがあります。

 業務マニュアルのようなものがない中で、後見人が自分を律しつつ、抱え込みすぎてつぶれてしまないためにはどんな工夫があるのでしょうか。

 正解のない後見活動です。
 担当者のメンタルケアについては難しいですよね。
 質問の方の組織はどうなっているのでしょう。
担当は1人でしようか、管理者とかの関係は?などいろいろ気になります。
せっかく法人後見ですので、法人内でコミュケーションをとれる工夫をされてはいかがでしょう。
 法人内で定期的に事例検討会をするのも良いでしょうし、スーパービジョンのような機会があっても良いと思います。また、フォローアップ研修のように他の後見人がどんな活動をしているか話を聞くのも刺激になって良いと思います。

 的外れな回答でしたらすいません。法人内で一度話合いをさせることをおすすめします。

 

 

13. 後見関連制度・法律 Ⅳ(税務申告)
 小野寺信哉(税理士)

質問1

質問 回答

 貴重な講義をありがとうございました。
 早速ですが、成年被後見人の所得税の確定申告についてです。

(1)市町村から「障害者控除対象者認定書」の交付を受けており、被成年後見人であることから「特別障害者」に該当する時、障害者控除(控除額27万円と40万円)は重複して適用されますか?

(2)レジュメ集3のP.200上(レジュメのスライドp.19) 所得税の確定申告 8行目以降、障害者控除対象者の交付を~の根拠、引用元はありますか?

(3)成年被後見人は成年後見人が選任されるまでその家族の助けにより青色申告の特別控除65万円の適用を受けていました。選任後、後見人が簡易な記帳による申告をし、控除額10万円の適用を選択した時、後見人は被後見人に損失を与えたことになり過失となりますか?

 以上よろしくお願いいたします。

(1)回答:

 27万円の控除と40万円の控除を重複して受けることはできません。

参考条文:
(障害者控除)
所得税法第七十九条 
居住者が障害者である場合には、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から二十七万円(その者が特別障害者である場合には、四十万円)を控除する。
2 居住者の同一生計配偶者又は扶養親族が障害者である場合には、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から、その障害者一人につき二十七万円(その者が特別障害者である場合には、四十万円)を控除する。
3 居住者の同一生計配偶者又は扶養親族が特別障害者で、かつ、その居住者又はその居住者の配偶者若しくはその居住者と生計を一にするその他の親族のいずれかとの同居を常況としている者である場合には、前項の規定にかかわらず、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から、その特別障害者一人につき七十五万円を控除する。
4 前三項の規定による控除は、障害者控除という。

 

(2)回答:
 所得税法の規定する障害者に「精神又は身体に障害のある年齢65歳以上の者で、その障害の程度が第1号又は第3号に掲げる者に準ずるものとして市町村長又は特別区の区長の認定を受けている者」があります。(所得税法施行令第10条7)
 「市町村長又は特別区の区長の認定を受けている者」とは障害者控除対象者認定書の交付を受けている者を指しますので、同条1号~6号に該当しない人でも、障害者控除対象者認定書の交付を受けることで障害者控除の適用を受けることができます。(なお成年被後見人は1号に該当するため、障害者控除対象者認定書の交付を受けなくても障害者控除の適用を受けられます。)
 住民税非課税世帯となる所得水準は自治体によって異なりますが、多くの場合、障害者についてはその水準が高く設定されています。

例)東京都文京区の場合(HP抜粋)

所得や家族の状況によって、次のような方は「均等割」や「所得割」が課税されません。

均等割と所得割のどちらも課税されない方
1.1月1日現在、生活保護法による生活扶助を受けている方
2.1月1日現在、障害者、未成年者、寡婦またはひとり親で、前年中 の合計所得金額が135万円以下の方
3.前年中の合計所得金額が、次の金額以下の方
扶養親族等のいない方…45万円
扶養親族等のいる方…35万円×(本人+同一生計配偶者+扶養親 族数)+10万円+21万円

 従いまして例えば前年中の合計所得金額が100万円の方がいた場合、障害者控除対象者認定書の交付を受け税法上の障害者となることで、住民税非課税世帯となることができ、非課税世帯に向けた福祉上の減免措置等を受けられるようになることがあります、という意味で記載したものでした。

参考条文:
(障害者及び特別障害者の範囲)
所得税法施行令第十条 
(所得税)法第二条第一項第二十八号(障害者の意義)に規定する政令で定める者は、次に掲げる者とする。
一 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者又は児童相談所、知的障害者更生相談所(知的障害者福祉法(昭和三十五年法律第三十七号)第九条第六項(更生援護の実施者)に規定する知的障害者更生相談所をいう。次項第一号及び第三十一条の二第十四号(障害者等の範囲)において同じ。)、精神保健福祉センター(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)第六条第一項(精神保健福祉センター)に規定する精神保健福祉センターをいう。次項第一号において同じ。)若しくは精神保健指定医の判定により知的障害者とされた者

二 前号に掲げる者のほか、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第四十五条第二項(精神障害者保健福祉手帳の交付)の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者

三 身体障害者福祉法(昭和二十四年法律第二百八十三号)第十五条第四項(身体障害者手帳の交付)の規定により交付を受けた身体障害者手帳に身体上の障害がある者として記載されている者

四 前三号に掲げる者のほか、戦傷病者特別援護法(昭和三十八年法律第百六十八号)第四条(戦傷病者手帳の交付)の規定により戦傷病者手帳の交付を受けている者

五 前二号に掲げる者のほか、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(平成六年法律第百十七号)第十一条第一項(認定)の規定による厚生労働大臣の認定を受けている者

六 前各号に掲げる者のほか、常に就床を要し、複雑な介護を要する者

七 前各号に掲げる者のほか、精神又は身体に障害のある年齢六十五歳以上の者で、その障害の程度が第一号又は第三号に掲げる者に準ずるものとして市町村長又は特別区の区長(社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)に定める福祉に関する事務所が老人福祉法(昭和三十八年法律第百三十三号)第五条の四第二項各号(福祉の措置の実施者)に掲げる業務を行っている場合には、当該福祉に関する事務所の長。次項第六号において「市町村長等」という。)の認定を受けている者

 

(3)回答:

 簡易簿記による青色10万円控除に切り替えることに合理的な理由があれば成年後見人が責められることはないと考えられます。
 逆に成年後見人選任後も家族の助けで従前と変わらず複式簿記による記帳が行われており、あとは青色決算書に転記するだけといった状況であれば、65万円控除を選択しないことに合理的な理由がないため、成年後見人の職務執行という点では不適切と判断されるかもしれません。(成年後見人の注意不足で期限後申告になってしまい65万円控除が受けられなかったというような場合も同様です。)
 例えば65万円控除による計算と10万円控除による計算で算出した税額の差が、65万円控除の要件を満たすために掛かる親族や後見人の手間(税理士に依頼する場合には税理士報酬なども)等を勘案し大きくなければ、簡易な10万円控除を選択するといったことも合理的な判断と言えます。
 なお青色65万円控除(55万円+10万円)を受けるには電子申告をする必要があります。成年後見人の代理による電子申告については事前に所轄税務署に手順を相談されることをお勧めします。

 

14. 身上保護の実務(意思決定支援等)
 水島俊彦(弁護士、成年後見制度利用促進専門家会議 委員)

質問1

質問 回答

 「強度行動障害」の状態がある人への行動援護の仕事をしています。

    従事者の一人に、電車が好きで担当する利用者とほかの従事者とではふだん行かないようなところに外出する人がいます。

    利用者の家族は、その従事者は子どもをいろんなところに連れていってくれるからうれしいと絶賛しています。ほかの従事者もその人は利用者をそんな遠くに連れていけるのはすごいと絶賛します。事業所としても、その従事者はすごいという評価で、「強度行動障害」の状態が悪くても電車が好きな利用者を優先的に担当させています。

    しかし、その従事者の話からは、遠くに行くためにスケジュールがタイトになっていること、特急列車に乗るために座りこんだ利用者を持ち上げたり、けっこう強引な手法を使っていること、電車内でも自分のスマホで動画を見せ続けて落ち着かせていること、それでも利用者がパニックになることがあることなどの苦労話を相談されます。また、家族や同僚から絶賛されている分、対等な立場で相談したり、事業所から指導を受けたりする機会がなく、一人で抱え込んで八方塞がりになりやすいことも相談してくれます。

    しかしながら従事者自身が電車が好きなこともありますが、家族や同僚からの評価がやりがいとなっている反面、プレッシャーにもなっていて、なかなか自分の支援方法を変えづらいという状況になっています。

    この従事者のように「利用者をふだん行けないように連れていってくれる」あるいは「ふだん体験できないようなことをさせてくれる」と支援は、意思決定支援の立場からすると、どのような評価になるのでしょうか。

    先生の見解を教えていただけるとうれしいです。

 電車が好きであることから、遠くへ行くこと自体に楽しさを感じている可能性はありますが、行き先や移動方法について利用者自身の意思がどこまで反映されているかは判然としません。

 「新たな経験の提供」は意思形成の観点から肯定される要素を含みますが、半ば強引な方法で実施されている部分がある場合、それは「最善の利益(良かれと思って)」に基づく支援と考えられます。ただし、このアプローチは意思決定支援とは異なり、利用者自身の意思決定を支える視点(支援付き意思決定の視点)が十分ではない可能性があります。

 目的地に行くこと、体験させることそれ自体が目的になっていないか、また、支援が本人のチョイス&コントロールに向けられたものかどうか、この点を再検討することが重要です。

 また、支援者が孤立し、支援方法を見直す機会を持てない状況は望ましくありません。家族からのフィードバックや事業所内での定期的な振り返りだけでなく、外部の支援者(特に障害当事者)との相談機会を設けることが、より良い支援の在り方を考えるうえで有効であると考えます。

質問2

質問 回答

 「強度行動障害」の状態がある人への行動援護の仕事をしています。

     「強度行動障害」の状態のある人は行動援護を使う前から社会参加の経験が少なくて、利用者自身が知っている情報は限られていることは否めません。その上で知らないことをイメージすることを苦手としている特性もあるため、「どこに行きたい?」と聞いても、今まで経験きたこと(いつも行ってる場所)に限定されてしまうことが少なくありません。

     利用者の社会参加を進めていくため、なによりも利用者自身が本当は実現したいと思っていることや、利用者自身も知らなかったけど、本当は利用者が楽しめる環境を新たに見つけ、その人の人生をより豊かにしていくために、支援者が本人の納得を得ながら、利用者が知らない世界へと一緒にいくことも障害者の社会参加を進めていく上では必要ではないかと思います。
     高齢者であればこれまでの社会経験から選んでいくことができますが、障害者、特に行動障害のある人は社会経験が乏しいために選ぶ材料がないケースもあります。

    これらをふまえて、意思決定支援の視点では、支援者が強引な手法になっても、行けば(経験すれば)利用者は楽しめるだろうと推測される新しい場所に連れていくことと、乏しい経験ながらも利用者が知ってる世界に留めておくのと、どちらを是とするのでしょうか。
    本当は利用者にわかるように説明して、利用者の納得を得て、利用者とともに新しい経験をするのが望ましいことはわかっているのですが、それができる支援者がいないというのが現状です。

    このように障害者、特に行動障害のある人への意思決定支援について、先生のお考えを教えていただいてもよろしいでしょうか。

 こちらも質問1と同様、「知らない世界へ連れて行く」こと自体が目的化すると、その過程で利用者の意思を無視することになりかねず、結果として本人のチョイス&コントロールが失われる可能性があります。

 新たな経験を提供すること自体は意思決定支援の一環として重要ですが、その方法について慎重に検討する必要があります。例えば、以下のようなアプローチが考えられます。

①ピアの経験を共有する
 同じような障害のある人の体験談を共有することで、新しい選択肢に対するイメージを持ちやすくする。

②意思決定支援ツールの活用
 トーキングマットなどを用い、本人の選好や価値観を踏まえながら提案を進める。

③段階的なアプローチ
 いきなり体験を強いるのではなく、小さな選択肢の提示から始め、徐々に範囲を広げていく。

 

質問1・2共通

 重要なのは、本人の中から何かしらの希望が生まれるプロセスを支えることです。

 多くの人が「こうしたい」という明確な思いを持っているわけではなく、「●●が好き」「●●が心地よい」といった日常の選好をもとに、新しい提案を少しずつ行い、無理なく取り入れていくことが求められます。
 こうした地道な支援には時間がかかるため、支援者だけで全てを担おうとすると負担が大きくなります。
 そのため、継続的に話ができる友人のような存在(コミュニティフレンド)や、意思決定フォロワーのような役割を地域の中で育てていくことも、重要な視点となるでしょう。

 後のご活躍を祈念しております。

 どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

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